五十嵐美幸/『中国料理 美虎』オーナーシェフ

CHEF’Sシェフインタビュー

■五十嵐美幸/『中国料理 美虎』オーナーシェフ

  • #首都圏
  • #中国料理

プロフィール

1974年8月29日東京都東村山に生まれる。小学生の頃から、父親が営む飲食店の手伝いを始め、1988年初めて厨房に入る。1990年東京都立農業高校食品製造科に入学。1993年高校卒業後、正式に厨房に入る。1997年フジテレビ『料理の鉄人』当時最年少挑戦者として出演。一躍「中華料理界の女傑」と注目を集める。2008年実家の中国料理店(世田谷区 広味坊)から独立。中国料理美虎開業。2014年プライベートでは12月末に男児を出産。翌1月には復帰し、精力的に活動を再開。
現在は中国料理美虎(みゆ)(東京都渋谷区西原)を経営。あらゆる中国料理の技法を習得した五十嵐が、広東・四川・上海・北京料理などの枠を超えて日本人の考える 日本の中国料理を生み出しています。

店舗情報

中国料理 美虎

[中国料理]

中国料理 美虎


住所:東京都渋谷区西原2-36-22 1F
電話:03-6416-8133
http://www.miyuki-igarashi.info/

interviewシェフインタビュー

Episode-1

―料理人を目指したキッカケ
実家が飲食店を経営していた
人に必要とされる人間になりたかったから



料理人を目指したキッカケは何ですか?

五十嵐シェフ
元々実家が飲食店だったので、なにしろ料理を作るというか、
食に携わって物を作ることが大好きだったっていうのが1番キッカケかな。

―具体的なエピソードも教えてください。

五十嵐シェフ
長女だったので、もう本当に小学校34年で肉まんとか、餃子を握ったり、
お手伝いは当たり前の家だったので、小っちゃい頃から普通にやっていたかな。
それで作ることの楽しさを知ったというのが1番大きいかな。
あとやっぱり、ほんとのプロの料理人になりたいって思ったのが中学とか高校とかで、
「自分は何のために生きているんだろう」とかすごく悩むようになって、
その時に「人に必要とされる人間になりたい」で、私が好きなのはやっぱり料理だったので、
その中で私が必要とされる人間になりたいと思って、料理をやろうって本気で思いました。

―ご家族に最初に作られたとのことですけど、その反応はいかがでしたか。

五十嵐シェフ
家族経営だったので、長女だったので、やるのが当たり前。
それで下には弟とか妹とかがいたので、お店を一緒にやるのは当たり前。
小学校とか学校が終わったらすぐ接客に入ったりとか、夜は仕込みしていたりとかがあったから、
親もすごく頼っていたし…。すごく手先が器用だったので、作るのが大好きだし、
親も「美幸に任せておけば大丈夫だ」みたいな期待はされていたかな。

Episode-2

―数ある料理ジャンルの中から、このジャンルを選んだ理由
たまたま家が中華料理屋さんだった
技法や、歴史の深さが勉強してもしきれないところ



―数ある料理ジャンルの中から、このジャンルを選んだ理由は何ですか?

五十嵐シェフ
本当にたまたま家が中華料理屋さんだった。
もし家が中華じゃなかったら何を選ぶかなって思ったら、もしかしたら日本料理だったかもしれない。
町の中華屋さんからスタートしたので、でも中華っていうのはすごく歴史が深い分、
技法がたくさんあって一生かけても勉強できないっていうくらいなものなんですね。
だから今となっては本当に中華でよかったって思いますね。

 

―またこのジャンルの他にはない良さや、大変(困難)なことも教えてください。

五十嵐シェフ
中華料理は女性の料理人が少ない。それだけやっぱり体力、スピードを求められるので、
そこの部分はやっぱり大変だったかな。だからやっぱり、
女性が少ないんだっていうのはやってみて分かったことだったり、
あと技法がたくさんあったり、歴史が深い分色んなものに意味があったりするので、
中華料理の魅力というのはすごくありますね。



―実際、体力とスピードが大切だ、大変だっておっしゃっていましたけど、
それについて気を付けていらっしゃることや取り組まれていることはありますか。


五十嵐シェフ
若い時は、本当にただ立っているプラス重い物を持たなきゃいけないという作業だったり、
筋トレとかスポーツドクターにケアしてみてもらったりとか、
常に注射で炎症止めをしたりとかっていう部分の繰り返しでしたね。
今ではもう職業病で(首の骨が骨化してしまう、重たいものを持って神経がここに払うんで、骨化してしまう)
難病になってしまって、首の骨を外して骨盤の骨を入れ替える手術をして、
そこからはもう無理はしないようにしましたね。
でも若い時はやっぱり「技術を身につけたい。何が何でも」、っていうのがあったから、
もうボロボロになりながらケアして、ケアが追いつかないっていうのもあったけど…。
そこから自分の上手な中華との付き合い方をしていて、今はある程度若いスタッフもいるので、
任せられるものは任せるようにしながらやってきましたね。

―皆さんそれは通られる道なんですか。

五十嵐シェフ
うーん、どうなんだろうな。
でもやっぱり、体力を使うお仕事でもあるので、特に女性はホルモンのバランスとか、
体力とか、頑張りすぎちゃうとかで、比較的身体にきやすいかなって思いますね。

―改めて、たくさんある料理ジャンルの中で中華というジャンルを選んだ理由は何でしょうか。

五十嵐シェフ
技法の多さだったり、歴史の深さっていうところが、
勉強してもしきれないくらいあるというところですかね。

―そして、この中華にしかない良さというのはどこだと思いますか。

五十嵐シェフ
炎だったり、鍋を自由に使えるという、この楽しさっていうのは
ものすごく調理していて気持ちよかったりします。

―それに反した中華ならではの大変なことはどんなことでしょうか。

五十嵐シェフ
やっぱり体力ですね。重さを味方につけていかなきゃいけないというところに慣れるまでに、
すごく時間がかかるものでしたけど、だからこそ身につく魅力だったりしますね。

Episode-3

―料理人として忘れないようにしている心構え
食材を1番に大切に扱うこと
食材とお客様を繋ぐ仕事が私たち料理人であるということ



―料理人として、忘れないようにしている心構え(意識)はありますか?

五十嵐シェフ
食材を第一に考えるということをすごく心がけています。

―その心構えが逆に大切だと思う訳はございますか。

五十嵐シェフ
食材とお客様を繋ぐ仕事が私たち料理人なので、そこに「私が、私が」っていう気持ちとか、
自分を見てほしいって気持ちになった場合に、やっぱり食材が1番にならなくなってしまうので、
そこをすごく気を付けるようにっていうのは若い時から思っていた。
特に女性なので、悲しいことや嬉しいこととかあった時にすぐにそういうのが出てしまいます。
自分の心を落ち着かせて、食材が1番だし、私たちは食材をお客さんに繋げるお仕事だという風に
すごく心がけていた。今は自然に出来るようになってきたけど、若い時は特に「こんなに頑張っている」
っていう自分の気持ちが1番になってしまったりだとか、そこで味がブレたりとか、
食材の良さを引き出せなかったりとかすることがあったので、そこ(食材が1番)を心がけています。

―ホームページを拝見したら、モットーの1つにお野菜をたくさん使うという文言があったのですが。

五十嵐シェフ
私は女性の料理人であることだったり、中華という部分で
やっぱり体力の面とか(色んな部分の戦いがある中で)、
自分がその中で出来ることって何だろうということを考えたときに、毎日食べられる中華を作りたい。
胃もたれせずに、油を多く使わずに、でも中華はみんな大好きだから、
“毎日食べられる中華”には野菜の力がとても必要でした。

Episode-4

―影響を受けたココロに残る料理
子どもの頃に通った町の中華料理屋さん
中華料理が“美しい”と感じられたお店


―影響を受けた(心に残っている)料理を教えてください。その理由も教えてください。


五十嵐シェフ
家が飲食店だったので、小っちゃい頃からよく親にはいろんなところに
食べに連れて行ってもらったので、中華の「竹爐山房(ちくろさんぼう)」というお店
(今はもう無いんですけど)、そこに行った時に、まだまだ町の中華屋さんは
チリソースとかチンジャオロースとか代表的なものしかなかったんですけど、
そこのお店には中華の色んなお料理があって、こんなに美味しいお料理が中華にはあることを知って、
さらに中華に対しての興味が湧きました。
私たちが若い時って、中華ってまだ汚いイメージだったりとか、油っぽいとか、
町の大衆料理というイメージがあったのが、そこのお店だけは違っていて、
精進料理から色んなお料理を出すお店だったんですね。
だから中華料理を食べて、なんて美しいんだって思ったお店ですね。
―今の五十嵐シェフの営んでいるお店も影響を受けていますか。

五十嵐シェフ
多分料理のスタイルっていうのは、そこの小っちゃい頃に食べに行ったときの
お店の影響がすごく大きかったし、高校卒業してから実家で働いている時に、
「休みの日だけ修業に行かせてください」と何度も門をたたいて、
そこで(料理の)勉強の仕方を教えてもらったんです。料理の勉強の仕方を。
なので、「料理を作れる努力は自分でしなさい、そのかわり勉強の仕方を教えてあげるから」と、
だからレシピは一切教えてもらうことはなかったですね。
なにしろ「食材を勉強しなさい」とか、「季節の旬の食材っていうものには全て身体に理由がある」とか、
そういう基本的な勉強の仕方を教えてもらった。
修業に行った時にその方の言葉というのは、ノートにメモっていて、今でも原点の宝物ですね。



―今はもう(お店が)ないということだったんですけど、
もう1度食べたいなって思う、思い出の料理というのはありますか。

五十嵐シェフ
思い出の料理か…。もう全てが。前菜盛り合わせから美しさから入ってくる。
そこのメニューは全部大切だったんですよね。
でも、その先輩が教えてくれたのは、「料理人はなぜ白衣を着ていると思う?」って、
「中国では、昔はお医者さんより、料理人の方が地位が上だったんだよ。」
「お医者さんは身体を治す人。でも料理人っていうのは与える人なので、よっぽどそちらの方が責任重大なんだよ」って、「だから白衣を着ている意味をちゃんとしっかり学びなさい」っていうことを教えてもらった。

―今の五十嵐シェフがいるのは、その方がいらっしゃったから。

五十嵐シェフ
今の私のスタイルを見つけられたのは、その方の言葉だったり、
勉強の仕方を教えてもらったことが大きいですね。

Episode-5

―影響を受けた人
町の中華料理屋さんの店主
料理人というものはどういうものであるかということを教えていただいた



―影響を受けた人物はいますか?

五十嵐シェフ
先程の「竹爐山房(ちくろさんぼう)」の山本さんという方に料理の仕方を教えてもらって、
料理人というものはどういうものであるかということを教えていただいたり、陳健一さんだったりとか、
まだ若かった時に「なにしろ笑おうって。美幸が笑顔でいることが美味しい料理を作れることだよ」とか、
本当に私はたくさんの先輩たちに可愛がってもらっているので、
料理の技術云々、人としてこうあるべきだっていうことをたくさん教えてもらいましたね。

ーどんなところに影響を受けたか教えてください。

五十嵐シェフ
何に向かって走っていけばいいのか、料理って修行しても修行しても、
そんなに形に見えるものではなかったり、誰がどう認めてくれるのか難しかったり、
不安になることがたくさんあるんです。
その中でやっぱり、立ち止まって不安になるときに大丈夫だよって言ってくれる、
心を支えてくれたことが一番ですね。

Episode-6

―過去に「もうダメだ!」と思うような試練
年がら年中あった
体力と精神の両方の限界が重なった時が1番辛かった



―過去に「もうダメだ!」と思うような試練はありましたか?
具体的なエピソードと、どう乗り越えたか教えてください。

五十嵐シェフ
「もうダメだ」と思うことは年がら年中あったかな。
やっぱり体力の部分とか、やはりスピードが追いつかないとか、体力もボロボロになって、
今度は精神も自信がなくなったりして、疲れてしまったりして両方ともダブルで来た時が1番辛いですね。

―それはちなみにいつぐらいの時ですか。

五十嵐シェフ
23~26歳あたりが1番、だから自律神経もやられちゃうし、
生理とかも1年に1回とかしか来なかったりするから、ホルモン注射とか、
自律神経もやられちゃうし、まぁ「料理の鉄人」も22歳で出たのでそのプレッシャーだったりとか、
今までは注目されていなかったから、ただ料理を作るのが好きで、勉強していたというのがあったけど、
やっぱりテレビに出たことで注目されちゃうから背伸びして生きなきゃいけないし、
もっともっと技術を身につけなきゃいけないし、もっと出来るようにならなきゃいけないっていう部分でのプレッシャーと体力が一番大変だったし、乗り越えるのに絶対に負けちゃいけないんだっていうのがあったので、もう意地ですね、意地でしかない。
だからものすごい気が強かったし、負けず嫌いだったし大変でしたね。若い頃は気が強かったし。

―いまは違いますか。

五十嵐シェフ
今はだいぶ自分らしく生きられるようになったので、それまでは頑張らなきゃいけないとか、
大好きなお料理が頑張ってやらなきゃいけないもの
に変わってしまった時がやっぱり1つの壁でしたね。

 



―具体的にその意地が通せたっていう部分は、どんな部分で乗り越えられたか。


五十嵐シェフ
20代の時は、絶対何が何でもここでつぶれちゃったら、
女性の料理人っていうのが認められなくなるっていう部分があったので、
もう死んだとしてもやろうっていう覚悟はあった。
それが自分の役割だったり、使命でもあるのかなって思って。
やっぱり女性の料理人ってまだまだ日本にはなかなか認められるものではなかったので、
その中で女性の料理人っていうのが絶対に認められるようになろうっていうのが
まず意地で、だから痛みとか、もう痛くて辛いけど、その前に気持ちの方が強いから、
病院行けばドクターストップかかるし、「このままやったら倒れるよ、ダメだよ」って言われたら、
「じゃあ点滴打ってください」みたいな感じだったりとかがあったかな。

―まさに命がけの時間を過ごされていたんですね。

五十嵐シェフ
そう。わからないことだらけだった。他の女性の料理人で相談できる人もいなかったので、
(でもやっぱり辛くなったときとか)どうしていいのか分かんないときは、先輩に会いに行ってました。
色んな先輩に会いに行って、でも会いに行ったときに何も私が相談しなくても、
先輩たちが自然と察してくれて、「大丈夫だよ、美幸大丈夫だよ、まぁ適当に休みながらやろうよ」みたいな。
うまく自分の言葉も伝えられなかったり、話せなかったりする。
でも、何か来たってことは彼女は悩んでいるんだろうなっていうのをどこかでわかってくれていて、
「大丈夫だ、大丈夫だ」っていつも温かく見守ってくださいましたね。

Episode-7

―今のご自身を作り上げた原動力
悔しい思いを経験したからこそ、女性が楽しく料理業界でやっていける姿を伝えたいという想い


―今のご自身を作り上げた原動力は何で
すか?


五十嵐シェフ
女性の料理人が楽しく社会で両立して生きていけるようになってほしいという思いで、ずっとここまで来ました。

―キャリアで言うと20年以上。
その頃の時代の女性の位置っていうのはまた今とは違ったものがあったと思うんですけど。

五十嵐シェフ
まだその時は築地だったので、築地とかにも毎週毎週仕入れに行くんだけど、
ちゃんといいものをもらえなかったりとか、相手にされなかったりとか、おままごとをしているのかとか言われたりとか、どんなに美味しいものを作ったり、技術を身につけようと思ってすごいスピードでやっても、「頑張ってるね」っていうぐらいにしか認められない。
女性料理人としてまだまだ、「家で料理作っていればいいんだよ、女は」っていう時代でもあったので…。
それが今ではやっと…。でもその時は絶対に「なんで女性が料理を作ったり、女性が働いたりすることを認めてもらえないんだろう」っていう部分が強かった。若い時は、悔しくて悔しくてしょうがなかった。

―実際20年間その思いでされてきて、変化は感じていらっしゃいますか。

五十嵐シェフ
そうですね、やっぱりどんどん、若い子たちとか、女性の料理人も増えてきたり、
まだまだたくさん課題はありますけども、大分変ってきたと思いますね。

―今も女性が料理界で働きやすくなったっていうこの環境は、五十嵐シェフの努力があったからかもしれませんね。

五十嵐シェフ
女性だからこそできることを見つけたりとか、
楽しんでやっているっていう姿を伝えていくことが大事なのかなって思いますね。

Episode-8

―向上心を持続させるためにしていること
小さな目標から大きな目標まで常に作ること
毎年100個の目標を書いている


―向上心(モチベーション)を持続させるためにしていることはありますか?


五十嵐シェフ
常に目標とかを作っています。一週間後の目標、1年後の目標、5年後、10年後というのを必ず。
私目標がないと走れない人なので、日々に流されないように目標を作っています。



―結構短いスパンでも目標を立てていらっしゃるんで
すね。近々の目標は伺っても大丈夫ですか。


五十嵐シェフ
入ってきた若いスタッフは絶対にミスを3つまでに抑えることとか、
あとは子どもと楽しめる時間を最低でも何時間取ろうとか、本当に日常的な目標だったりします。

―達成率はどのくらいですか?

五十嵐シェフ
達成率は70%くらいかな。でも1年に1回必ず、年が明けたら必ずやりたいこと100というのが毎年変わる。
1年が終わるぐらいになったら、100の内、何個できたかなと全部消して、また次の年に向けてやりたいこと100
100って本当にくだらないことだったり、大きい物でもあったりするし、「スタッフ皆で旅行行く」とか、「家族の時間を作る」、「アイスクリーム10種類以上食べる」とか、本当にくだらないんだけど、やりたいこと100個をバーっと常に書きます。1年っていうのはあっという間に終わってしまうので、大切にしていきたいなっていう風に思っています。

Episode-9

―師匠や先輩から学んだ最も大切なこと
自分が病んでいると、食材も悪くなってしまう
私自信が幸せになること

 ー師匠や先輩から学んだ最も大切なことは何ですか?

五十嵐シェフ
たくさんたくさんあるんだけど、1番自分が心に響いたのは、「まず美幸が幸せになりなさい」ということ。
私が幸せじゃないと周りの人に幸せを与えることができないよって言葉が1番。
誰かのために(何かのためにという部分で)、どこかで自分を犠牲にしたり、
女性は、難しい感情もあったりするので、その時にやっぱり1番心に大きく変化出来たのは
「まず私自身が幸せになることを考えなさい」という言葉かな。

 



―先程も心が料理に出
るっておっしゃっていましたものね。

五十嵐シェフ
心が病んで、例えば失恋して「やりたくないな」と思ったりして、
そこでハマグリとか触ったりするとハマグリが死ぬんですよ。
野菜もそうだったり、やっぱり私たちは生きているものを扱うので、
自分が病んでいるとその触れる食材のそのものも悪くなってしまいます。
だって私たちもそうじゃん!元気な人といると元気になるけど、すげぇ怖くて暗い人といるとなんか、自分の力が吸い取られちゃうので、そういう意味では“私自身が幸せになる”ということを33歳の時に初めて思ったかな。初めて言われた言葉だったので。

―すごいですね。自分の心、コンディションが、そのまんま食材に移ってしまうんですね。

五十嵐シェフ
本当にそれは知らなかったことでしたね。
若い時はやっぱり、技術を身につけよう、知識を身につけようとか、
これだけ仕事を結果としてできるようになろうと精一杯だったのが、
1番大切なのは自分自身の健康な心なんだってことに気づきましたね。

Episode-10

―料理界で女性であることが良かった点、大変だったこと
女性だからこそ作れる身体を気遣ってあげた料理、新しいジャンルが見つかったところ。
大変だったところは、女性ならではの気持ちのコントロールが1番難しい。


―料理界で女性であることが良かった点は何ですか?逆に大変だったことは何ですか?


五十嵐シェフ
この料理業界で女性が認められないのはなぜだろうとか(色んなことを)考えている中で、
女性だからこそ出来ることを見つける事が出来たというのがいいことですね。
逆に大変だったことは、頑張りすぎたり、気持ちが先になったり、物事をちゃんと伝える事が出来なかったこと。
やっぱり、女性は気持ちがどうしても強くなっちゃうので、男性以上に頑張りすぎたりしてしまう。
うちも(料理人志望の)女の子は今までたくさん来るけど、やっぱり男性以上にある意味真面目だったり、
とことんまでやってしまうので、それって何のために頑張っている?っていったら、
自分のために頑張っているのではなくて、少しでも仕事を覚えて誰かのサポートができるようにとか、
女性ってすごく誰かのために頑張ってしまう生き物なんですね。そういう意味では難しい生き物だけど、
そこが魅力的な女性の料理人がいるんだなという事を見つけることができたこと。



―女性だからこそできることで具体的なことは何かありましたか。

五十嵐シェフ
毎日食べられる中華だったり、身体を気遣うことだったりとか、
女性だから料理人として何ができるかっていうところでは、
身体も心も健康にしてあげることを考える。
ある意味、母性っていうものをどう料理、飲食店に出していけばいいんだろうってことを考えるようになった。

―男性でも母性を持ち合わせている方もいなくはないと思うんですけど圧倒的に女性の方が…。

五十嵐シェフ
ちょっとした気遣いや、小さな遊び、繊細さの部分で、
女性ならではの温かさを出していくってことかな。

Episode-11

―料理づくりのインスピレーションを感じるコトやモノ
目的(食べる人)→食材の季節感→技法の順で作り上げていく。
まず何を求められているかを1番に考える

―料理づくりのインスピレーションを感じるコトやモノがあれば教えてください。
具体的にどんな部分に感じるか教えてください。


五十嵐シェフ
基本的には目的があって、例えば今の夏の時期だったら、身体を熱から冷ましてあげなきゃいけなかったり、お客さんにこういう風にしたいって気持ち、例えば体の中が冷えちゃったりするから温めてあげたいというような思いが必ずあって、次に食材の季節感があって、それで技法に落とし込んで、必ず自分の中で目的や目標っていう部分を作り上げることはやっているかな。



―季節に合わせてというのも、意識されていることでしたよね。

五十嵐シェフ
それは日本ならではという、日本には四季があるので、やっぱりその旬なものというのは身体にも役割があるので、そういうものを料理人として、しっかり、お客さんの身体のためにも入れていきたいなって思うかな。



―レシピとかも随時考案されたりとかしていますか。


五十嵐シェフ
ひどいときとかはもう月に100以上とかやらなきゃいけないこともあるので、本当に鼻血が出そうになる。
お店のメニューもあるし、料理教室もあるし、(例えば本とか)色んなものがあるので、
その時に全部相手の目標が違うので、そこに合わせて全部リセットしてっていう。
今日はお店のお客さんのためだけに考えようとか、今日は本を買ってくださる読者のために、
どうやったら簡単に美味しくみんなに喜んでもらえるかというのを全部その都度その都度リセットしますね。

―それだけのものを考えられていると相当色んなネタとか、知識もいると思うんですけど、
そのヒントはどこから生まれてきたりするんですか。


五十嵐シェフ
ヒントは、例えば料理教室だったら生徒さんたちが何を求めているのかな、
何に問題があるのかなっていうのを考えてあげて、どうしてあげたら
(どういうものを作り上げてあげたら)その人のためになるのかなっていうことを考える。
例えば15分でご飯を作らなきゃいけない。じゃあ15分で作れるものって何だろうなって、
それで身体がよくなるもの、美味しくなるものってなんだろっていう風に必ず目的を明確に作る。
そうしないと永遠とドツボにはまるので、必ずターゲットの人、地域の人によって作っていくかな。

―ご自身が作りたいものではなく、相手が何を求めているかというところから始まるということですか?

五十嵐シェフ
自分が食べたいものっていうのは、まかないとか家で作るみたいな感じだけど、
私たちは食材とお客様を繋ぐお仕事なので、そこを1番に考えますね。

Episode-12

―自分の専門分野以外の味を勉強する必要があるか
勉強は必ず必要
日本は世界各国の料理を高いレベルで勉強できる

ー自分の専門分野以外の味を勉強する必要がありますか?また勉強することで得られることは何ですか?

五十嵐シェフ
あると思います!
中国料理は技法がたくさんあるけれども、やっぱり日本料理の端から端までの神経の行き届き方や、
できればたくさんのジャンルの技法とか勉強はしたいなと思います。
なぜなら日本は和洋中、日本料理、洋食、中華も含め、こんなにレベルが高いところはないと思うので、
日本では何でも勉強出来るなと思います。


―何か具体的に、別のジャンルのお料理が中華料理に役立ったエピソードはありますか。

五十嵐シェフ
ありますね。日本で食べる中華なので、私は“日本中華”というものを目指して作っています。
日本の食材を中華の技法に落とし込むこともあれば、中華の食材を和の技法で落とし込むこともあります。
なので、タイでアイアンシェフという(海外版)料理の鉄人があるんですけど、
そこで(出演し)“日本中華”というものをしっかり出してきたんですね。
和の食材を中華の技法で落とし込んだり、ヘルシー感を出したりとか、
美しさを出したりすることによって“日本中華”というのがすごく世界的にも認められてきている。
今までは「なんの料理だ」ぐらいだったのが、今では認められるようになったから、
本当にやっていてよかったなって思います。
健康志向になっているので、みんな中華は大好きだけど毎日は食べられない、胃もたれするという中で、
和の技法を取り入れながら、身体を気遣うことをしながら作っていくとすごく新しいジャンルだけど、
歴史をしっかり繋げていくっていう感じかな。

―それぞれのジャンルの色々な良いところをうまく盗むというか、取り入れているのですね。


五十嵐シェフ
技がそれだけ増えるだけなので、中華で技法はたくさんあるけども、
(旬のものとか)日本料理の技法もたくさんあるので、
それが食材にとって、料理やお客さんにとって良かったら、色んな技法を取り入れたいかな。



―現在、五十嵐シェフは日本という国で、中華料理を専門にされていますが、
和食が具体的に役立っている点はありますか。

休みの日に修業に行くこともあったり、和食の先輩のところに「少し入らせてもらっていいですか?」
って言って、”どんな仕事なのかな”、”どういう仕事を心がけているのかな”というのを見させてもらう中で、
日本料理の素晴らしさは仕事が丁寧で、端から端までの神経、料理を始める前からが準備
(料理が始まっている)という点だったり、考え方、技法かな。
技法も昆布締めから色んな文化があって、そういうのも取り入れているかな。
やっぱり日本人が食べるので、日本人の舌に合ったお料理を作るのには絶対必要。

Episode-13

―料理でこだわっていること
食材を調味料に代えて、カラダに優しい料理
油、砂糖、化学調味料の3つをあまり使わない


―料理でこだわっている(ゆずれない)ことと、その理由を教えてください。


五十嵐シェフ
なるべくあまり調味料を使わないで、食材を調味料に代えていくことです。
毎日食べられる中華を作っていきたいので、
調味料は必要最低限にするっていうところは心がけています。



―そのために必要な条件というのはありますか。


五十嵐シェフ
例えば、酸味をトマトで出したり、(砂糖をなるべく使わないで)食材の甘みを砂糖代わりに
(自然な甘みを入れる)など、身体にとって身体が喜ぶようにしたいので、
食材を調味料にするから、めちゃめちゃ手間暇かかるんですよ。
そこが大変だけどスタッフは嫌だとは言わずにやってくれているので。

ー本来のうま味を楽しんでいただくというのもモットーに入っていましたよね。

五十嵐シェフ
食材を調味料にすることで、身体の負担が少なかったり、
中華のうま味の部分を食材で作っていくということにはこだわっている。
私もやっぱりジャンキーな街中華って大好きなんですけど、
どうしても中華は、油、砂糖とか化学調味料が多かったりしますよね。
なるべくこの3つを使わないよう、それをなるべく食材で取り入れるようにする。
食べた後にどうしてもちょっと胃もたれしたりとか、胃が疲れたなみたいになっちゃうので、
食べ終わった後でも元気ですっきり、おなか一杯だけど
なんか全然すっきりしているみたいなのを目指して作っていますね。

Episode-14

―調理器具でこだわっていること
調理器具を大切にすることと、整理整頓、衛生が大事

―調理器具でこだわっている(ゆずれない)ことと、その理由を教えてください。

五十嵐シェフ
そんなにこだわりはないけど、包丁が切れないというのは絶対的にダメなので、包丁はちゃんと切れること。
調理器具でこだわっているというよりは、何より衛生ですかね。
整理整頓というところがやっぱり自分の中で1番必要としているところかなと思いますね。



―こちらのお店はオープンキッチンなので私たちでも見えるんですけどすごくきれいですよね。

五十嵐シェフ
わざと見えるようにしています。逆に中華というのはどうしても汚いっていうイメージがついちゃったり、
油っぽいっていうイメージがあるけど、そんなことないよっていうのを実現させていきたくて、
こういうオープンカウンターにしたかな。

―中華料理で使う調理器具の特徴とかありますか。

五十嵐シェフ
中華鍋とかは、自分が使いやすくなじませていくように作っていくんですけど、
今は、私はほとんど中華鍋を振らないようにはしているので・・・
やっぱり肩を痛めているので(難病なので治る病気ではなく、またやれば手術の繰り返しになる)
今は中華鍋の重い鍋を何度も振らなくていい技法を使ったりとか、そういうことをやっている。



―包丁含めお手入れもやっぱり大切っておっしゃっていましたけど

五十嵐シェフ
ですね。やっぱり整理整頓ができないと料理はなかなか作れないかな。
整理整頓っていう部分では、1番大切な部分だと思います。

―お手入れも仕込み時間以外では欠かせない時間だったりしますか。

五十嵐シェフ
どうやって営業時間内で段取りを作っていくかというのも仕事の1つなので、
(永遠と時間がかかる、ずっとかかっちゃうものを)時間内でやらなきゃいけないことを、
どう工夫するかというところ。本当の努力はそこかなって思います。
ダラダラそれをやるんじゃなくて、時間内でそれがどこまでできるかっていうところが
大切なところかなと思います。

Episode-15

―自分がイメージした料理を一皿にするまでの試行錯誤
自分が心に描いているものを作り上げるまでは絶対に諦めない


―自分がイメージした料理を実際に一皿にして提供するまでには、どのような試行錯誤をしていますか?


五十嵐シェフ
私は子どもがまだちびっ子だったり、そんなに料理をする時間が取れなかったりなので、
なるべく“脳内調理”じゃないですけど、頭の中で調理することが多くなりましたね。
子供を寝かしつけている間だったり、何かやっているときに、「こういうものをこうやって作りたいというのを頭に入れて組み合わせる」みたいに、頭で調理することが多くなった。
それまでは(若い時は)何度も何度もやって、10回でうまくいく時もあれば、
3回でうまくいく時もあって、大切なのは諦めないこと。出来るまでやることが大切だと思います。

 



―イメージとピッタリの時もあれば、違う時もあるんですかね。

五十嵐シェフ
そうですね。「あー全然違った」とか、やっぱり時間が限られているので、
その中でどういう風にできるかっていうのを工夫したりとか、
若い時は納得いくまでずっと作り続けたりとか、出来るまでやっていた。
1個諦めたら他のことも諦めなきゃいけない、諦めるのが早くなってしまうので、
絶対に諦めないということをやっていましたね。

―作ろうと思っていたものは、必ず形にしてきたんですね。
1番かかった時は、どれぐらい何度もやり直されましたか。


五十嵐シェフ
3日間ぐらいかかる時もあったりとか、でもそんな時は何かがズレているんだなって、
自分の気持ちとその食材に対しての勘違いだったりとか、おかしかったりするので、
1回0にして(リセットして)本来どうあるべきかってことを考え直して、
それを何度も繰り返して、34日引きずることもありますね。
逆に1発で決まる時もあります。やっぱり完璧だわって思うってこともありますし。
でもやっぱり諦めないってことかな。

Episode-16

―プロの料理人にとってレシピの存在とその価値とは
レシピはあってないような存在
人によって同じものが出来るとは思わないので


―プロの料理人にとってレシピの存在とその価値とは何でしょうか?


五十嵐シェフ
ここは、私あんまりレシピは有って無いようなものだと思っているので、
どんなにレシピが有ったとしても器具だったり、環境だったり、
その人によって同じものが決して出来るとは思わないので、
レシピをそんなに価値があるものっていう風に思っていない。
一時的に通過点の1つかなって思ってしまう。



―いつもオリジナルとか、そうやってどんどん作られたレシピは何か形で残されているんですか。

五十嵐シェフ
残そうと努力したり、色んなスタッフにすぐ忘れちゃうから「ファイリングしといてね」とか
頼みますけど、数が多すぎちゃうので…。あとはほぼほぼ忘れます。
11回リセットしちゃうので、結構忘れることが多かったり、あとは料理教室の生徒さんだったり、
お客様だったりにすごく好評だったものっていうのは、毎年その時期になって、
「あーあれ作ったよね!」みたいな感じで、でも毎年毎年同じ味で作れるかって言ったら、
その時に採れる野菜だったり、味も違うので、その都度その都度そこに合わせていくのがいいかな。

Episode-17

―独立を決めたキッカケ
私が目指す中華料理を作りたかった

―独立を決めたキッカケ(タイミング)は何ですか?

五十嵐シェフ
まだまだ中華料理っていうものが、代表的な料理しかなくて、
私が(自分が)思う作りたい料理を作りたかったから。
それはやっぱり毎日食べられる中華だったり、もっと油を控えめで美味しい物作れないのかなと
ずっと思っていて、そんな料理が作りたいと思ったからですね。



―1人で作る自信がついたなって思ったのはいつ頃ですか。

五十嵐シェフ
1番始めに独立して、お店を持った時に厨房からホールを作る時に、
人に頼らずに、最悪自分1人でも出来る環境をまずは作りました。
誰かがいないと作れないことによって、執着になったりとかもあるので、
仕込みから接客から1人で全部できるっていうところから、まずスタートしようと思いました。
女性って、男性もそうなのかもしれないけど、頼ってしまったりとか、
この人がこういう風にやってくれるからって思い込むことによって、
人に対して執着という感情が出てきてしまうんだなと思ったりして・・・
(恋愛だったり、人間付き合いもみんなそうなんですけど)、
そうすることによって自分の感情が健康でなくなってしまう。
自分がいい料理を作れなくなるっていうことに気づいて、
だから人に対して求めないというのを20代後半とか、30代の頭に誓ったりしたかな。



―独立されてオーナーシェフになる苦労の面と、良い面どちらもあると思うのですが・・・

五十嵐シェフ
やっぱりオーナーシェフというのは、自分の好きなことがある意味できるけど、責任も全部取らなくてはいけない。オーナーシェフだからこそ認めてもらえることっていうのも、よくこの業界だと「ちゃんとお前は背負ってるな」と。その責任を背負いながら自分がやりたいことに対して進んでいくっていうこgとかなって思います。

―自分はお節介なところがあるので、人にやってもらうよりも、自分1人で全部やりたいみたいに思うことがあって、でもそれだと多分スタッフの人とかと、うまく仕事が出来ないんだと思うんですけど、そう思わないようにするにはどうすればいいですか。

五十嵐シェフ
1番大事なのは、この人間関係って1人で出来ないことがあったり、団体でやらなきゃいけなかったり、
1人でもやらなきゃいけないこともそれぞれ場面場面で違うと思います。
けれど、自分がなぜそこに立ってて何をやるべきかっていうことをまずは明確にすること。
私のお店でもそうだけど「人に気を遣う暇があるんだったら、お客さんに気を遣え、食材に気を遣え」と、
そこで遠慮したりとか、そこでどう思っているのかなとか悩んだり、考えたり、
「私はやらないほうがよかったのかな」とか思う必要はないと思っています。
そこで「私はお客さんに、こういう風に喜んでもらいたいんですけどいいですか」っていう、
「じゃあ私にもやらせてください」って言ったらやればいいと思うんで、目的さえ見失わなければ、
そこで無駄に悩む必要がなくなるっていうのが私の中での答えでしたね。
そこまで気を遣ったりだとか、こうした方がいいんじゃないかとかっていう風に悩んでしまうけど、
本当に悩む場所はそこではない。どこで悩むかっていうのは、
やっぱり私たちはお客さんのためだったりとか、美味しいお料理を作る目的のためにやるので。
でも必ずそれを人に伝えていかなきゃいけないっていう工程は必要だと思います。

Episode-18

―経営者五十嵐美幸の理念とは
人が幸せになってもらえる料理を作ること

―経営者五十嵐美幸の理念は何ですか?

五十嵐シェフ
会社としても自分の生き方としても、本当に人が幸せになってもらえる
料理を作りたいっていうところを常に大切に目標にしています。



―人が幸せになるお店=ご自身が幸せであること

五十嵐シェフ
食べる幸せ、口から物を入れられる幸せだったり、食材に恵まれている幸せだったりとか、
色んなものがあると思うので、私はやっぱり料理人として、食材とお客様を繋げる中で、
本当に「あー幸せだな」って思います。
私も美味しい物食べると幸せだなって思うことがたくさんあるので、
人に幸せになってもらえる料理が作れたらいいなって常に思ってお仕事しています。

―お客様の幸せな顔を見る瞬間っていうのが、やっぱり幸せですか。

五十嵐シェフ
そうですね。あんまり料理を作っているときにお客さんとお話はしないんですけど、
ほっこりしてもらえた時がすごく良かったと、ふと思いながらやっています。

Episode-19

―最高のおもてなしとは
頑張って楽しんでいる姿を見てもらうこと
その人の生き様とか考え方とかがお皿に出るから

―最高のおもてなしとは何でしょうか?

五十嵐シェフ
ここはやっぱり難しい。
日本ならではの心遣いだったりとか、優しさだったりとか、色んなものがあると思うんですけど、
私は頑張って楽しんでいる姿を見てもらうのがおもてなしなのかなって思う時があるかな。
色んな形、高級なものを揃えたりとか、空間を揃えたりとか、色んな心のおもてなし
(色んなもの)があると思うんですけど、私の先輩が「お前の人生をお客様は食べに来ている」、
「だからお前が失敗したり、泣いたり、悲しんだり、苦しんでいるところもお前の味の1つだぞ」と言う。
私も色んな所に食べに行った時に、この方が作るお料理って素晴らしいなって思う時とか、
この空間のこの先輩たちのガチャガチャした生き方だったりとか、勇気や感動や嬉しさを覚えるので、
それがなんか本当の生きる生き様がおもてなしなのかなって思う時がある。
格好つけたりすごく気遣ったり色んなことができるけど、形だけじゃないものってあるのかなって、
それが本当のおもてなしなのかなって、あからさまに自分をむき出しにできることも
おもてなしの1つなのかなって思う時がありますね。ちょっと深いですけどね。



―お店をされている五十嵐シェフだからこそ他のお店に行かれることもあると思うんですけど、
おもてなしに目がいきますか。


五十嵐シェフ
会いたい人のところに食べに行くことが多いんですけど、料理とか云々よりも、その人の生き様とか考え方とかがお皿に出ているので、それを食べて「やっぱりすごいな、この人はこれだけ色んなことを考えているんだな、ここを大切にしているんだな」っていうのを、本当の意味で1番そこが食べたいところであるし、私も元気になって「さぁ頑張ろう!」って思うかな。だから全然お店の作りとか気にしないかな。
空間だったりとか入ってくるところの雰囲気だとかがにじみ出ちゃうんで、
それをある意味消し去っちゃうのも寂しいなって思っちゃうんですよね。
やっぱり機械が作るものではなくて、人が作るものなので。料理、お店、レストランというのは。
だからそこが1番楽しみなところでもあります。

Episode-20

―スタッフとのコミュニケーションで意識していること
一番は信頼関係
お互いに相乗効果をもたらす存在でいたい

―スタッフとのコミュニケーションで意識していることは何ですか?

五十嵐シェフ
基本的にはまず“信頼をする”っていうことかな。
あと自分が“大切にしていること”とか、“こう思うこと”とかを伝えることですかね。信頼関係だと思います。
スタッフが私よりも下だからとかではなくて、いち人間として相乗効果であるべきだって常に思いますね。
やっぱり若い子が入ってきたり、1年生からだったりとか、色んなスタッフ全部のいいところを私は全部吸収します。
1つの目標に向かって一緒にいく仲間なので、そこに関しては基本的に信頼、尊敬っていうのをお互いがしっかり持って、相乗効果でありましょうって、どっちかがつぶれるなら出会う意味がないと私は思う。



―先輩が作ることが多いので、私は先輩が動きやすいように仕事するということをしたら、私が信頼を得られる

五十嵐シェフ
私が厨房に入る時は、私のすぐ下のスタッフに、私が最高の料理を作れるようにサポートしてほしいと
(言います)。例えばその子が(今度)上に立つ時はその下の子が彼が最高に仕事が出来る環境を
作るようにするのがあなたの仕事です。と必ず私も伝えます。
そこは信頼だったり、どこかで任せられる譲れないものそれぞれ料理をしていく中であると思うので、
そこをどう理解してどう伝えていきながらやっていくか。失敗は誰にでもあるし、仕方ないこと、
失敗して怒られることはありがたいことだし、悩んで苦しんだりすれば今の自分の位置より
上に行けるタイミングなので、そこを逃げていたらそこから足踏みで進めない。
だから「辛いよね。だけど今あなた凄く成長しているだよ。前に進んでいるんだよ」ということを言います。
だから怒られることとか、失敗することを恐れていたら前には進めない。要は安心感がほしいから。
それって辛いことなんですよね。私も辛いことがいっぱいあったからこそ、大きくなれたと思います。



―今お店にスタッフさんは何名いらっしゃるんですか

五十嵐シェフ
8人かな。基本的には私は2番手を信頼し、2番手はその下を信頼して、というふうにしている。
なるべく口出ししないように、彼(2番手)に任せているので、もし彼に何かあれば全責任は私がとります。
だからあなたが思うように、思いっきりやりなさいって言います。
失敗することに対して(物を落としたり、発注ミスとか)に関しては軽くは怒りますけど、そんなには怒らない。
けれど、人が人の悪口を言ったりとか、人を馬鹿にしたりとか、食材を雑に扱った時にはもう稲妻を落とします。
メチャメチャ怒ります。過呼吸になっちゃうくらい、ものすごく怒りますね。
人を馬鹿にしたりとかは、「あなたがそんな人を馬鹿にしたりする権利はない。」そういうことに対しては怒っちゃう。そういう(感情的な部分)は直さなきゃいけないけど、怒りがこみあげてきちゃう。

―そういう場面になった時のスタッフさんの変化はありましたか

五十嵐シェフ
黙って見てたけど、ここはちょっとという時には、2回までは見逃して様子みるけど、
3回目まだコイツ気づかないんだなって時には「ふざけるな、こっち来い!」とコテンパンに怒るので、
みんな心臓がえぐられたような顔してる。

―それでもスタッフさんがついてきてくれるのは、何が違うと思いますか。

五十嵐シェフ
そこまで怒っちゃうと心が折れて、ある意味プライドをへし折っちゃうので、
傷ついて辞めちゃう人もいるし、でもそこは私の中では譲れない。
ここに立っている以上、この会社にいる以上譲れないというのがある。

Episode-21

―すぐに辞めて行ってしまう人に共通していること
待つことができず、すぐ結果を求めてしまうこと
修行は料理を勉強するところではありません

―離職率が高いですが、すぐにやめて行ってしまう人に共通して欠けていることはありますか?

五十嵐シェフ
待てない。
辞めていく人の共通点は必ず自分で勝手に答えを出して決めてしまう、すぐ答えを欲しがる人とか多い。



―面接も五十嵐シェフがされるんですか

五十嵐シェフ
基本的には私がします。だからその中で、どんな理由であれ、最低でも”3年は頑張りなさい”と言います。
3年頑張らないと次のステップには上がれないので、「耐えるということ」とか「自分でもう勉強するのが辛いです」とか「ここでやっていても自分が何をやっていいのか分かりません」とか、そんなあなた何ケ月や何年でそれで分かるの?って、まず言われたことを頑張ってやってみるというのが一番大切です。
履歴書見ても必ず3年続いているかどうかって大体見ると思いますよ。

―それ以外にこの人は使いたいと思うことはありますか

五十嵐シェフ
あんまり見ないかな。
こういう飲食で頑張ってやっていきたいという人に対しては「じゃあ、来なさい」っていうことが多い。
一概にその時だけの判断は出来ない。若い時、ある人に一時的に今のその人を見て絶対判断してはいけないと言われて、しかもそれだけで判断するほどお前はえらいのか?って。
いつ化けるか分からないし、いつ良い芽が開くか分からないし、すごいものを持っているかもしれないし、
いち人間として対応してみることって言われて、基本的には疑ったりすることはあんまりしないです。
でもルールをちゃんと守れない人に対しては実家に帰します。
独立して地方から来ている子もいるので、この社会のルールっていうもの、ちゃんと時間に来るとか、
働くってどういうことかを理解しなくて、遊んだりとか自分がコントロールできない人に関しては、
「まだちょっとうちの方では責任をとれません」とご実家の親御さんに引き取りにきていただくことがあります。



―離職率が高いといわれているのは、どんなところだと思いますか。

五十嵐シェフ
何でも簡単に手に入ると思っているんじゃないですか?
時間が作ってくれる技術だったり、時間が作ってくれる料理だったり、修行ってあるので、
どうしても目に見えるものが出来るか出来ないかで判断されがちな時代になっている。

―料理業界だからというわけではなく、時代自体が影響している。

五十嵐シェフ
料理業界も離職率が大きくなっています。
そこには目標だったり信じるものだったり、夢が薄かったり、見えるものだけを信じてしまう時代だからかな。



―自分は白黒つけたがる性格で、頑固であることを自分では欠点だと思っているんですが、
もっと柔軟に考えたいと思いますが
、負けず嫌いな自分が出てきちゃって出来てない時が多くて、
そういうのは仕事において、どうやって直せばい
いのでしょうか?

五十嵐シェフ
みんな修行は料理を覚えることだと勘違いしているんですけど、「それは修行」なんですって。
私も若い時に教えてもらいました。自分のいい所や悪い所、得意な部分や苦手な部分と向き合うこと。
そして人間性をどんどん高めていく、自分のいい所は自分で認めてあげなければいけないし、
頑固なところがあるのであれば「そういうところがあるんだ」と自分が分かることによって
注意することが出来るじゃない?!それを直すってことはなかなか難しいことだと思う。
でもそんな自分がいる、また私こんな頑固なところが出ちゃった、今度は一歩引いてみようとか、
人間性を柔軟に、大きくしていくのが修行です。
料理は人間が調理をして作るものだから、自分を通ってものを作るわけじゃない。
自分の人間性が大きくなれば、どんどん素晴らしいお料理ができる。
でも頑固な人間は頑固なものしか作れない。優しい人間は優しいお料理が作れたりする。
だからその人の人柄が出ます。こういう自分がいるということを認めようと、自分と向き合うことが修行だから、
それはそれでいいと思う。直さなきゃ、こうしなきゃって自分を否定しないで、必ず自分を認めてあげて、
こういうところの頑固さはすみません、ってちゃんと謝れる自分になる。
そういうところが修行なんじゃないかなと私は思う。まずそこからかなと思います。

―料理というのは技とかだけじゃなく、人間性も育っていくそんな職場でもあるんですね。

五十嵐シェフ
修行は料理を勉強するところではありません。勉強は学校でしなさい。自分でやりなさい。
まず自分という人間性を高めることです。整理整頓ができない人は整理整頓を覚えなきゃいけないし、
人とコミュニケ―ションがとれない人は、まずそこから自分と向き合って少しずつコミュニケーションをとれるように、自分の穴をふさぐ場所だって、自分を大きくしてくれる。
そういう環境を作るところが修行だってことを言われましたね。

―折角そのチャンスが掴める場所に入ったのに、待てなかった人はそれすら出来なかった

五十嵐シェフ
そこでもう向き合えない、待てない、何をあなたはそんなに急いでいるの?
「私は早くこうしたい。こうなりたい。」と言うけど、まず自分と向き合うことが出来てないよね。
自分はどういう人間なのか、まだわかってないよね。というところです。
そのスタートラインにも立てない。それが辞めていく人の共通点です。

―まずは3年ですね。

五十嵐シェフ
3年やると、否が応でも自分と向き合わざるを得ない。
色んな人から言われたことを受け止めて悩む、どうして出来ないんだろうって悩む、考える、
作戦を練る、失敗する、その繰り返しをすることによって知らないうちに剥がれていく、
でも自分じゃその姿は分からない。でも周りはすごく分かる。

Episode-22

―若い料理人に求めるもの
元気いっぱいに夢をしっかり持ってもらいたい

―若い料理人に求めるものは何ですか?

五十嵐シェフ
もう本当に元気いっぱいでいてほしいかな。
若いんだから元気いっぱいで。若い人を見るとこっちも元気になるから、
若い人のエネルギーをフルに活用していただきたいかなって思いますね。



―若い料理人の方っていうのは、元気があるっておっしゃっていましたけど、全員が全員元気じゃないですよね

五十嵐シェフ
元気がないにしても、自分らしくあってほしい。楽しんでもらいたいかな。
楽しみ方を知らない、与えられたものじゃないと楽しめないっていう(ことではなく)、
自分の生きている環境だったり、その環境で楽しみを見つけてほしかな。

―先輩の五十嵐シェフから見て、若い方にしかできないことって何ですか。

五十嵐シェフ
そうですね、開き直りだったりとか、軽く物事をとらえたりすることだったり、
ある意味、ダメな部分でもあるけど、いい部分でもあると思うので、
そういう若い子の切り替えの早さっていうのは素晴らしいなと思いますね。

―一緒に働かれていて、得ているものがあったりとかはありますか。

五十嵐シェフ
あんなに怒られても全然めげないんだなとか、あとこれ以上自分の中に全部入れたら
崩れちゃうから吸収するのは少し抑えているなと、自分でちゃんとコントロール出来ている。
「おまえ話聞いてないのか」っていう風に(怒る側は)なっちゃうけど、全部聞いたら壊れちゃう人もいる。
だからそこで自分をちゃんとコントロールしているなっていうのを見ながら、
「ちゃんと調整しているんだな」と思っています。私は全部を吸収したいと思っちゃう方だけど、
ちゃんと自分を維持できるようにコントロールするのも必要なんだなって若い子を見て思うときもあるし。
「聞いてんのか?!」って言うと「ふぁい」みたいな返事で。
そういう抜けた感も大事だよな生きていく上ではって思います。

Episode-23

―結婚や出産を経験した中で料理人であるがゆえに大変だったこと
出産後2日で退院し、予定していたお節作りの仕事をやり切った
溢れ出る母性を感じながら、仕事とも格闘する中、周囲へ協力を願ったり考え方の変化がおきた

―結婚や出産を経験された中で料理人であるがゆえに大変だったことは何ですか?

五十嵐シェフ
例えば、独立してお店を出す時に家を買うぐらいの借金をしなきゃいけないじゃないですか。
そういう意味ではなかなかそれを理解してくれる相手じゃないと結婚は難しかったり、
出産という部分に関しては、経験しないとわからないことであったので、自分の中ではこんなに頑張って、
こんなに色んなことを乗り越えたから、全然頑張れることって思っていたのが、
人の命という大切さに気づいたり、頑張ってもどうにもならないことがあるんだってたくさん学びましたね。



―その経験が何か料理に活かされたことはありますか。


五十嵐シェフ
自分ではあんまりわからないけど、変わったっていう人もいれば、結婚や出産をすることによって
自分だけじゃどうにもならないことが増えてくる中で、人と力を合わせることと、
ちゃんと皆に理解をしてもらって協力をしてもらえる努力をするってことが大切でしたね。



―どうしても男性のシェフとは違って、出産にかかる、
妊娠中も含めてお仕事が出来ない時期があるわけですもんね。

十嵐シェフ
そうですね。私の場合はスタッフに、妊娠7か月くらいで伝えた。
ギリギリでしたが、仕事もたくさん入っていたし、切迫だったので2か月入院したのかな。
その時は死ぬほど予約も入ってくるし、だからもうレシピをメールで送って、
再現して作って病院に持ってきてもらって調整して。でもまだお腹にいる間はわかんなかったんですよ。
自分が頑張ればどうにかなるし、出来ることをやっていけばいいや、みたいな感じだったんだけど、
いざ子どもが産まれたときに、初めて母性っていうものが溢れてきちゃって、
うちは血液型不適合ですぐ集中治療室に入っちゃったんだけど、その時に初めて人前で大泣きした。
私はなんで自分の都合で仕事をしていて、この子を第一に考える事が出来なかったんだろう、、
今まで仕事が一番だったのが、この子が1番大切になった。
でもそんなにこの子を1番に大切にしちゃいけないんじゃないかとか、そこの格闘があって。
その時に皆に協力してもらって、私はこれがすごく大切なものだから、
私はこういう風に少しでも期待できることをやっていきたいから協力してほしいってことを素直に、
皆に協力してもらいながら、仕事も続けていくということを伝えた。
私はそれまでは簡単に子どもを育てられると思っていたんですよ。こんなにバリバリに働いているから。
主人もテレビの仕事だったので、「大丈夫、大丈夫。全然仕事しながらでも面倒みれる」と思っていたら、
産まれたらその母性にのまれて「もうどうしよう、この子どうしよう」と。
すぐお節を作らなきゃいけなくて、本当は1月6日が(出産)予定日だったんだけど、
そのお節というのは、皆(社員)のボーナスなので、なにがなんでも絶対やらないといけないから、
38週になったら絶対産まないといけないから、38週になる23日前に15時間くらい歩いて、
とりあえず38週目の1日目か2日目に産んだんですね。お節には何がなんでも間に合わすからって。
でも自分のある意味都合で、仕事をそれで調整してしまったことの罪悪感だったりとか、産まれてきたときに、
なんて愛おしいものが出来たんだろうと。初めて産んで分かった感情だったりとか。
とりあえず産んで4日ぐらいで退院するところを2日で退院して、
「お節作るんで退院させてください」とお願いして、もうボロボロになっちゃって。
その時に子どもを産むってことは命がけだってことに初めて知って、
でもそれを知らなくてやるって言った私がいけないから、それは私が責任をもってやるしかないから。
そこで色んな考え方が変わったり、あとは子どもはお母さんが元気で幸せだったり、
元気な姿が1番の栄養だったりするんだなってこととか、子どもを産んで子育てってことは、
親を育ててもらっていることなんだって気づき始めましたね。

―それはやっぱり女性シェフじゃないと体験できない葛藤だったり、経験じゃないですか。

五十嵐シェフ
だからそこは声を大にして、女性も楽しく料理の仕事に就きたい人たちもたくさんいるから、
女性ならではの役割もたくさんあるからそれはもう皆さんに理解していただきたいし、
協力していただきたいってことは、色んなイベントでもいうし。
例えば私もメールとかインスタとかのコメントで若い料理人の方が
「結婚して子供を産んで、料理人をやるってことは贅沢な悩みなのでしょうか」っていう風に、
やっぱりそこで悩んでいる。結婚もしたい、子どもも欲しい、料理もやりたいっていうのは当たり前です。
それを叶えるためにどうするのかを考えようねって、これをしちゃいけない、
だからこうしちゃいけないとかっていう風に思わなくても私はいいような気がするし、
それが今認められる時代になってきていると思います。それをどう実現させるかを考えていく方が大切。

Episode-24

―“料理の鉄人”に最年少挑戦者として出場した時の気持ち
ただただ我武者羅にやった
人生の1つの大事なイベント

―料理の鉄人に最年少挑戦者として出場した時はどういう気持ちでしたか?

五十嵐シェフ
22歳なので、失うものもなければ怖いものもない歳だし、わからないので、
ただただ我武者羅(がむしゃら)にやっただけですね。何も考えていないです。
やっぱり将来なりたい夢で料理人というのが、すごい勢いよく上がっていった時代だったし、
日本の料理業界のレベルが一気に上がったというぐらいの本当に歴史的に大きい番組でした。
最年少でしたし、22歳だったので、でも22歳なんて何もわからない歳だし、ただただ一生懸命やって、
目一杯それで戦ったっていうことぐらいですかね。



―オファーを受けたときは率直にどう思われましたか。

五十嵐シェフ
1番初めに(番組側が)お店に来て、父親に(依頼が)来ていたんですけど、
父親が入退院を繰り返していたので、私が基本的には料理長として切り盛りしていたので、
そしたら番組側から「こんな若い子が切り盛りしているんだ、これは面白い」ってオファーいただいた。
けれど、そんなテレビの世界なんて知らないし、見ている側だったので、「そんなの無理ですよ」って何度かお断りしましたが、「若い子たちがこれからこれを見ている人たちが勇気づけられたり、皆が頑張れるようにしたいので」って言われて、「じゃあ何かのお役に立てるなら、わからないけど目一杯頑張ってみます」とオッケーしました。

―実際出てみてよかったですか。

五十嵐シェフ
この番組出ていなかったら私の人生も変わっていただろうなって思うんですけど、
こればっかりは本当にたまたまだし、出てよかったでしょうね。こんなにたくさんの人に出会えて、
色んな経験を積ませてもらえたっていうのは私にとって財産ですね。



―最年少22歳で出演されたってことで、しかもそれが女性というところで、
やっかみとか、何か大変だったこともありますか。


五十嵐シェフ
その時は「天才だ、天才だ」って言われることによって背伸びをしていなきゃいけなかったり、
「女だからここに立てるんだよな」って「大たいしたもんだな」っていう風に言われることがすごく多かったし、
番組に出たキャストであって、女性だってことで料理人として全然認めてもらえない。
そういう部分での悔しさもありました。

―今はこういった、類似のテレビ番組はなかなか無いですけど、
逆に自分のSNSなどを使ってすごく発信できる時代でもありますよね。
五十嵐シェフ
も活用されているみたいですが、いかがでしょうか。

五十嵐シェフ
女性の料理人としてお店もやりながら、結婚して子供を産んでいる中で、
例えば子供を持つ母親としての先輩たちがいて、新人(ママ)は色んな話を聞きたかったり、
普段の料理はこんな簡単にできるっていうこととかを、日常を見せていく時代になったので、
基本的に私は苦手で、どっちかっていうとプライベートはプライベートでという風に思いましたが、
「こういう時代だからやっていきましょう」っていう感じになった。今はそれを楽しくできるようになったりとか、どうしてこのSNSが色んな風に必要とされているのかっていうのはやってみて分かることだったりとか。

Episode-25

―女性が料理業界で勝ち抜くためには必要なこと
女性だからこそできるものを見つけていくこと
男性の生き方をまねる必要はありません

―女性が料理業界で勝ち抜くためには何が必要ですか?

五十嵐シェフ
女性だからこそできるものを見つけていくってことかな。
勝ち抜くためには、男性と同じことを基礎として学んで知ることは大切だと思うけど、どうしても壁があると思う。
なので、その中で私が出来る役割って何だろう?女性だからできることって何だろう?ということを考えていく中に、答えが出てくるのではないかと思います。男性を追っかけてもやっぱり体力も違ければ、考え方も違ったりするので、
女性は女性のできるものを見つければ、その料理業界の幅が、もっと大きくなるような気がする。
だから男性と同じ生き方を真似する必要もない。自分がやりたいことだったり、作りたいものだったり、
私だからこそ作れるものだったりを見つけていくことかなだと思います。



―壁がある要因っていうのは

五十嵐シェフ
体力でしょうね。1番は。男性と同じようにやろうと思っても、なかなか体力が続かなかったりするかな。
基本的に体力が違いますからね。

―今お話しを聞いていると競うわけではなくて、女性が活躍することで幅が広がる。

五十嵐シェフ
女性だからこういうことが出来るんだねって認めてもらえるようにもなると思うので、そこで見つけていく。

Episode-26

―料理人人生で一番感謝していること
料理を作らせてもらえていること、私を活かしてくれていること

―料理人人生で一番感謝していることは何ですか?

五十嵐シェフ
料理を作らせてもらえることかな。自分を活かしてもらえている。
活かされているってことに本当に感謝しているかな。
多分これがなかったら自信がなかったり、不安になっちゃうので、料理を作らせてもらえること、
活かしてもらえることが1番の感謝かな。料理以外何もできないからね。



―まさにこう天職っていう感じですかね。

五十嵐シェフ
そうですね。本当に私にとっては私を活かしてくれている、生きる意味を作ってくれているものですね。
料理というのは。

―料理人になられてよかったなって感じることって何ですか。

五十嵐シェフ
本当に喜んでもらえたときですね。嬉しかったとか、
こんな私でも人に喜んでもらえることが出来るんだっていうところかな。1番。
やっぱり人間だからめげることもあるし、料理は目に見えるものだったりするじゃないですか、だからそこかな。

Episode-27

―料理人を目指す女性へのメッセージ
女性が輝ける場所の1つとして夢と希望をもって、諦めないでいてほしい
相談できる人を作ること

―料理人を目指す女性にメッセージをお願いします

五十嵐シェフ
もっともっと楽しく、可愛く、笑顔に料理業界をしていきたいので、
女性が輝ける場所の1つとして夢と希望をもって、諦めないでいてほしいなと思います。




―いま目指している方は実際に主濱さんをはじめとしてたくさんいらっしゃると思うんですけど、
具体的なアドバイスとか何かありますか。


五十嵐シェフ
壁にいっぱいぶつかるとは思うけど、自分の頑張り方を考えていくっていうのはすごく大事だと思う。
女の子はYesかNoがはっきりしている。特に料理業界に多かったりするので、どうやって頑張ればいいのだろうと相談できる人を作ることが大事かなと思います。
すごく有名なところ(お店)の2番手は意外と女性が多かったりします。
でもすごく仕事が出来るけど辞めたいって、そこの料理人の人が「美幸さん、話してあげてくれないかな」って来てくれたりするんですね。
女性はある程度、20後半から30歳になってくると、女性ホルモンもあったり、ホルモンバランスが変わるので、
子どもを産みたい、結婚願望があるのは当たり前のことなので、だからそれを忘れていてガムシャラになっていた時に、急にポカンとなって「私どうすればいいんだろう」とか、すごく悩んじゃったりとか、どんなに仕事が出来ても満たされない時ってたくさんあります。そういう時には女性に相談した方がいいと思います。そこのところは女性にしか分からないところです。
女性はそういう生き物なので、そういう時もあるよね。って。何か分からないけど、涙が出てくる時とか、
そういうことが結果が出て認められるようになっても、またそこの壁があるので、
それをどう楽しく自分がやりたいこととか(結婚したいこと、出産したいこと)
素直にちゃんと言っていくのが大切かなと思います。

―今の自分のことで精一杯だけど、歳が行ってもまたそういう悩みがあるんだと思うとちょっと怖い

五十嵐シェフ
でもどの職業もそうかな。女性が働くのが当たり前の日本になってきている。
もっと言うと海外では、普通に女性が1として働いていて、認められているし、
タイでお店を出していた時にも差別がなかったです。日本ではまだ「女性だから」という言葉があるくらい。
海外はそういう言葉が何一つないです。
だからイチ人間としてみてくれるので、そこは日本と違うんだなって思った。
それと自分の夢に向かって頑張ることはいいけど、女性だからって頑張らなきゃいけないというのは
おかしいと思うので、なんかもっと楽しい夢だったり、楽しい職業にしてほしいですね、料理を。

―この質問自体がちょっと時代遅れかもしれませんね。

五十嵐シェフ

そうですね。日本はまだまだここのところなんですよね。本当に海外とかは全く関係ないですからね。

―これからは料理の世界からそういった考え方も変わっていくかもしれないですね。

五十嵐シェフ

そうですね。それが変わるときにいま日本も来てるんじゃないですかね。

Episode-28

―料理人人生における最終的な目標とは
介護食や病院食など、命と直結する食の仕事がした

―料理人人生における最終的な目標は何ですか?そのために取り組んでいることはありますか?

五十嵐シェフ
料理人の人生にあって、もちろんお店の料理を作っていて「美味しいって何だろう」ってことに
すごく悩み始めたり、そこには思い出の味があったりだとか、どんなに高級食材を積んでも
おふくろの味に叶わなかったりとか、そんなことが料理をやっていて気づくことがたくさんあるんです。
本当に美味しいって何だろうってことをずっと求め続けていますね。
あとやっぱり食べることっていうのは命と直結していること、身体を作ることなので、
本当に本当に大切にしていくべきものだなと思います。



―生涯現役を考えていらっしゃるんですか。

五十嵐シェフ
1番最後の最後は介護食だったり、病院食、病気になって薬を処方されるんではなく、
こういう食べ物を食べたら良くなるんだよっていうような、やっぱり命と直結する仕事をしたいなと思います。

HPにも「医食同源」という言葉が出ていましたが、まさにそんな感じですね。

五十嵐シェフ
食べることは生きることなので、元気になることも含めて食べることの意味を考えて、
最後までやっていきたいなと思います。

―料理人は人を幸せにする仕事なんですね。

五十嵐シェフ
やっぱり身体が健康であれば精神も元気になるし、食べ物で人生は変わると思います。

Episode-29

―ズバリ!一流の料理人とは
続けていくことが出来る人

―ズバリ!一流の料理人とは何ですか?

五十嵐シェフ
一流の料理人かぁ。続けてやっている人かな。
やっぱり諦めたり、事情があったり、身体のこともあるかもしれないけども、
やっぱりそれを続けていくっていうことが逆に大変なことだと思います。
だから本当に続けてやってくださっている先輩たちは本当に一流だし、
その人たちがあって私たちはいられるので、続けて歴史を作ってくださる方たちかなって思います。



―「継続は力なり」という言葉がありますけど、簡単なことではないですよね。

五十嵐シェフ
そうですね。
若い2030代とかでコロコロ仕事が変わって転職する人もいるけど、
本当に続けている人っていうのはすごいなって思います。

―続ける為に必要な要素ってどんなことだと思いますか。

五十嵐シェフ
自分の役割、自分の星を見つけるっていうか、例えば、どんなにテレビに出たいと思っても、
その星じゃないと出られないんですよ。そこに料理が上手いか下手かじゃないんですよ。
それぞれの役割ってあるんですね。
そこで自分自身の役割に気づけるか、自分の立ち位置を見つけられるかってことだと思うんですよね。
自分はこういう星なのにこっち行きたいんだって思ってもやっぱりなかなかそこは成功しないので、
自分の星を見つけるっていうのがすごく大事なことだと思ったかな。



―見つけるのもまた大変なことですよね。

五十嵐シェフ
だから1歩引いてみて、客観的に色んなところを見るっていうのも大切。
自分が何を求められているのかとか、自分は何のために料理をしているのかプラス自分は
何をすることを周りに求められているのかってことを自覚する、知ることが大切だと思います。

―五十嵐さん自身はどんなところで気づけたりしましたか。

五十嵐シェフ
私はどっちかっていうと黙々と研究所とかで研究していたい研究が大好きだったりとか、
でもテレビだったりとかいろんなものに出る中で、私が続けていくことで女性が成功する、
女性が作って美味しいと思われるものを結果を出すことが私の役割なんだなって思いますね。
辛いとか悲しいとかなんてないっていう。そこは役割として徹底するみたいな。
意外にすごく人見知りだし、人付き合いも苦手だったりするものを、やっぱりテレビとかだと開き直って、
私は役割でここにきている。だから自分がすごいなんて思ってないし、今日できることを精一杯。
今与えられている番組だったらその番組を精一杯やることでほんとに切り替えます。

―とても初対面の時にそんなことが感じられないくらいにこやかで、
きちんと自ら率先して挨拶してくださいというのは、もしかしたら経験から克さ
されたことなんですかね。

五十嵐シェフ
そうですね。まぁでも22歳からテレビとか出て、2324年経っている。
その中でやっぱり自分の役割だったりとか、自分の立ち位置だったりとかも含めて
自覚をしていくようになりましたね。

Episode-30

―コロナによって気づかされたこととは
「耐える」、そしてどう肥やしにしていくか
色んな事に向き合えるチャンスだと思った

―コロナによって気づかされたことはありますか?

五十嵐シェフ
色んな事が当たり前じゃないんだって気づかされましたね。
皆が自由で好き勝手に出来ることが当たり前じゃなかったってことに気づいたし、
また食べることっていうことがどれほど大切なのか、そこにも気づかされましたね。



―具体的に影響っていうのはどうでしたか。

五十嵐シェフ
もろ影響でしょうね、うちなんかは。うちは年齢層の高いお客様が多いので、出ることが怖いし、
スタッフも守らなきゃいけないしっていう部分があるかな。だから休業せざる負えないこともあるし、
無理をしてやることがあんまりよくないんじゃないかってことも考えましたね。

―今現在は具体的な対策とかされていますか。

五十嵐シェフ
中途半端に下手に動いてもしょうがないとも思うんで、休業できるところは休業して、今1店舗だけでやって、
ベテランの子たちだけを動かして、(今年に入った)4月に入社した子たちはすぐに実家に帰しちゃいましたね。
やっぱり東京で(わからないところで)野放しにするのも、あまりにも危ないし実家に帰った方がいいなと
思うんで、本当にこのコロナっていうのは、色んな事を気づかされたタイミングなのかなって思っています。

―実際に今日インタビューで来ていただいている主濱さんもコロナの影響を感じていらっしゃるんですよね。

学生(主濱さん)
学校も3か月くらい休校になって、学校でしかできない実習が削られました。
アルバイト先が新宿だったので、行くのがちょっと怖いなって思って、
でも前の日常が戻ってきてほしいなって、ずっと考えています。

五十嵐シェフ
でもこのコロナっていうのは、”耐えるってこととか、あとはこのコロナをどう肥やしにできるか、
エネルギーに変えられるかっていうところが、次の時に大きく変わるだろうなって、
このコロナで何も動かないで、暇だけど、働いてなくてもお給料もらえるからいいかって思う人と、
このコロナ終わったときに、この時間折角あるんだからとか、うちとかも保育園がお休みなので、
子どもとこんなに長くいられない、一生ないだろうなっていうくらい一緒に入られて、
すごく向き合えた時間だったなって思います。
経営としては、ある意味大変ですけど、お金じゃ代えられないこともたくさんありましたね。

Episode-31

ー学生からの質問

reportインタビュアー紹介・レポート

インタビュアー

  • 武蔵野調理師専門学校
    高度調理経営科 2年
    主濱 七海さん

レポート

この度はインタビューをさせて頂き、ありがとうございました。

同じ女性として共感できる部分が多く、モチベーションもとても上がりました。

一流の料理人として、また女性としてのお話も聞けて、私もこれから長い時間をかけ経験を積んで行きたいと思いました。食材を調味料に代えるということでしたが、実際に試食させて頂き、旨味はもちろん五十嵐シェフの人柄が本当に出ているなと思いました。特に四川の麻婆は苦手意識がありましたが、初めて旨味を感じました。辛すぎなくて肉やトマトの旨味が感じられ、本当に美味しかったです。優しい味が人柄からこんなにも出るんだと感動しました。油揚げ焼売や、梨の酢豚も、今まで食べたことのなかったアイデアの料理、味で食べていて美味しいという感情だけでなく、とても幸せになりました。私もこのように人にを喜ばせることができるように、努力していきます。本当にありがとうございました。

recipeお店を代表する3品

厨房での五十嵐美幸シェフの姿をお楽しみください。

油揚げシューマイ

油揚げを皮代わりにしたオリジナルシュウマイ
1.シュウマイの皮だとベチャっとするので、ジューシーに仕上げられる
2.うま味を逃がさないよう丈夫であること
この2点を油揚げはクリアできました。

梨巻き酢豚

季節感を出せるように梨を豚バラで巻いて酢豚仕立てにしました。

トマト麻婆

お豆腐の代わりにトマトを使用し、トマトの酸味と辛味が合わさった一品です。

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