陳 建一/『四川飯店』グループ オーナー

CHEF’Sシェフインタビュー

■陳 建一/『四川飯店』グループ オーナー

  • #首都圏
  • #中国料理

プロフィール

陳 建一(ちん けんいち)
1956年 東京に生まれる。初めて日本に四川料理を紹介した故 陳建民の長男。
東京中華学校を経て高校・大学と玉川学園で学ぶ。その後、父の経営する赤坂四川飯店で本格的に料理修業を開始。1990年 父の後を継ぎ赤坂四川飯店社長へ就任。
1993年 『フジテレビ 料理の鉄人』に中華の鉄人として、また『NHK きょうの料理』の講師として出演。他、雑誌・料理学校の講師など幅広く活動。2011年 (社)日本中国料理協会 会長に就任。2014年 四川飯店グループ 取締役会長に就任。
現在、四川飯店グループのオーナーとして四川料理の普及や後進の育成に努めながら、テレビ・ラジオ・雑誌などのほか、講演やイベントなどでも活躍中。

店舗情報

赤坂 四川飯店

[中国料理]
赤坂 四川飯店
住所:東京都千代田区平河町2-5-5 全国旅館会館5F・6F
電話:03-3263-9371
https://www.sisen.jp/

interviewシェフインタビュー

Episode-1

―料理人を目指したキッカケ
やっぱり美味しい物を食べたい、 作りたいから、ただそれだけです

料理人を目指したキッカケは何ですか?

陳会長
僕の場合はうちの父が料理人だったので、小さい時から食の環境でした。
うちの父が休みの時には料理を作ってくれたし、何かあれば店に行って大人しく皆と宴会だよね。
そのような環境だったから。
あとは、調理場でうちの父が仕事している姿をよく見ていて、かっこ良かったですね。
リズムに乗って鍋を振って、あっという間に料理が出来て、包丁なんかもすごくきれいでしたし、
なんか劇を見ているようなそんな雰囲気でした。調理場自体が音楽です。
蒸籠やガス、まな板の音、炒める音の全てがミュージックみたい。すごく美味しいミュージックですね。



ーそれをご覧になっていて、ご自分も・・・

陳会長
僕はそんな小さい頃からなろうとは思っていませんでした。
うちの母が絶対に僕を料理人にしたかったのです。
だから僕は寝る前に、母が耳元で「お前は大きくなったらコックになるんだぞ」と
3回囁かれてから寝ていました。うちの母はすごく頑固と言うか厳しい人だったので、
僕が他の道へ行くことは不可能でしたね。絶対に料理人にさせたかったから。
でも、たまたま食い意地を張っていたので良かったです。
自分の家が中華料理だから一番楽ですよ。
どちらかと言うと、苦の道と楽な道は苦の道に行きたくないです。楽な道に行きたいです。

Episode-2

―料理人として忘れないようにしている心構え
ちゃんと一生懸命に料理を作ることです

ー料理人として忘れないようにしている心構えや意識はありますか。

陳会長
それは永遠のテーマで、気持ちよく作る事です。
味は人それぞれだから、絶対これが良いというのはないかもしれないけど、
やっぱりいい加減に作ったものは食べたくないでしょ。それだけです。
“心を込めて”とよく言うけれど、それをずっとやり続けるのは、人がやることなので至難の業です。
でも、そこの上にプロというのが付きます。
僕のプロ意識というのは、どんな時でも作らなきゃいけないです。それがプロだと思います。
根性という言い方は今では古いかもしれないけど、嫌々作った料理は食べたくないです。
嫌々盛り付けた料理も食べたくないし、それを実践するだけの話で、そんなに難しい話ではないです。



ー人間は生きていると平坦ではないと思いますが、そういう風に気持ちを保っていますか。

陳会長
それはコントロールするわけですよ。
調理場に入ったときには嫌な事をすぐに忘れる。これは本当に修業が必要です。
俺は自分で公言するようにしています。そうするとごまかせなくなるのでね。

Episode-3

―偉大なお父様のプレッシャー
プレッシャーはめちゃくちゃあります 父と比較されるのは宿命です

ー先程、キッカケの1人としてお名前が挙がりましたお父様が非常に偉大な料理人だったわけですが、
そのプレッシャーは何か感じていらっしゃいますか。


陳会長
プレッシャーはめちゃくちゃありますね。2代目さん、3代目さんと言うのは、どうしても比較されます。
これはもう宿命です。だから結局父の味を目指そうとしますが、無理です。
料理の味と言うのは、どこの老舗もみんなそうですが、やっぱり基本的な味というのがあって、
基本的な作り方というのもあります。
同じものを作るのは、やっぱり無理です。うちは店がいっぱいありますけど、
全員が同じ味の麻婆豆腐を作れるかと言うと、微妙に違います。レシピだけで出来れば苦労はしないです。



ーお父様を目標にはしていましたか。

陳会長
若いうちは目標にはしていました。シャカリキになって、「俺は親父の味を目指すぞ」と言ってやる。
でも無理です。その無理だということに初めて気が付いた時に自分の道が開けます。

ー陳さんからご覧になってどんなお父様でしたか。

陳会長
僕には甘かったです。考えられないくらい非常に甘いですよ。
これはしょうがない事だけど、ただでさえ特別なのに、
「特別扱いをしてはダメだよ」と他の人は言えないので僕が言いましたね。

ー逆に今は息子さんが同じ道を歩まれていますが、師匠としてどんな教育をされていますか。

陳会長
教育というのは、自分の仕事姿を見せるだけです。僕はいちいち細かいことはあまり言いません。
うちの父はレシピが大嫌いな人で、そういう性格だったのですが、でも残さなくてはいけないから、
色々な工夫をして僕が残しましたけどね。



ー改めまして、お父様が非常に偉大な料理人だったわけですが、
そのプレッシャーは何か感じていらっしゃいますか。


陳会長
プレッシャーは感じています。
ある時にこんな事はしてはいけないですが、自分で作った料理を親父が作った料理として
お客さんに持って行ったら、「流石に味が違うね」あぁこんなもんかな・・って、気づかれないですよ。
親父の味に近づくという事も大事ですが、そこにエネルギーをかけるよりは、
自分のこれからのお客様にエネルギーをかけた方が自然です。
お店というものは最終的にはファンを増やすわけですから。
そのファンというものは、味だけではなくて、店の雰囲気とか、そこのサービスマンが良いとか、
値段とか色んな要素がそこにあります。そっちにエネルギーをかけるべきでしょということに、
ようやく気が付いて、そこからどんどん楽になって良い料理が作れるようになりました。
今はもうプレッシャーは無いです。

Episode-4

―影響を受けたココロに残る料理
中国に行くといつも寄るドライブインのちまき、 これは美味しいです

ー影響を受けたココロに残る料理があれば教えてください。

陳会長
これはその時々にあります。やっぱり地方に行った時の山菜が美味しいとか、
その地でしか食べられないものやその時期でしか食べられない物があるわけです。
日本は特に四季があったりして、中国も全く同じで、ここでしか食べられない珍味に出会った時は感動だよね。
それぞれの美味しさがありますからね。



ー何か浮かぶ料理ありますか。

陳会長
過去に食べて、その調理法とかを見せていただいたからキノコとか、キノコでもなかなか取れないキノコとか。
魚とかは中国では川魚がいっぱいだから、1匹何百万円とかするのですよ。信じられないですよね。
例えばお茶なんかもそうだよね。プーアル茶というお茶があるのだけど、2000万円のプーアル茶があります。
値段聞いただけで、美味しいですよね。

ーまだまだ知らない食材が世の中には沢山ありますね。

陳会長
山ほどありますよ。
だからそういうのを求める人が多いわけよ。あとは逆に本当に素朴に「美味しいね」と思います。
例えば、中国のドライブインの粽(ちまき)です。これは美味いね。
そこのドライブインでしか食べられないです。粽は蒸すのと煮るのと2種類あるけど、それは煮る方。
いつもそこに寄ってしまいますね。でも結局その後に食事があって、
食べすぎて食べられなくなってしまいますよね。具は豚肉と塩漬けの卵です。これが本当に美味いです。
杭州にあるドライブイン。



ー改めまして、影響を受けたココロに残る料理があれば教えてください。

陳会長
影響を受けた料理というのは山ほどありますが、肉団子です。
うちの息子の修業先の四川省に師匠がいて、その師匠が作った肉団子がとても美味しいです。
その時にはフレンチの坂井シェフもいて、彼も「この料理最高だよ」と言っていました。
レシピをもらったのですが、無理でしたね。再現できません。
俺たちは食べるのが大好きだから、毎年中国に2人で行って、向こうの料理をいっぱい食べます。
他にも落合シェフも行きますけど、皆食いしん坊なんだよ。
だから皆で行きますけど、特別料理というか、目の前でシェフが作ってくれる料理を食べるというか、
奇想天外な料理です。大きな箱を持ってきて、それをバーナーで燃やしだします。
それはなぜかと言うと、ゼラチンの中にイシモチという魚がいるからです。
ゼラチンはそれだけのためで、その中の魚を食べます。ほら貝を4時間炊いて食べたり。
演出!ツボをバーンと割ってそこから牛肉が出てきたり。美味しいんだけど、演出をする料理人がいるんです。
そういう人と交流するの。その代わりに坂井さんはそこで料理を教えたり、料理の交流は楽しいですよ。
言葉の壁なんてないです。

Episode-5

―影響を受けた人
うちの父です 調理場に入ったときのオーラが凄かった

ー影響を受けた人はいらっしゃいますか。

陳会長
影響を受けたのはやっぱりうちの父ですよ。
うちの父というのは調理場に入ったときのオーラというのがすごかったです。
存在感というものは真似できないですね。
あとは作り方がとても丁寧で、おもてなしするのが大好きで、家にも中華の厨房があったので、麻雀仲間を呼んで、食べる姿を見るのが父は好きだったので、目の前で料理を振舞っていました。



ーすごいサービス精神ですよね。

陳会長
お客様へのもてなし
サービス精神は天下一品でした。

ーいつもお家には色んなお客様がいらっしゃったんですね。

陳会長
頻繁に色んなお客様が来ていましたよ。だって美味しい物が食べられますからね。

ー本当におもてなしの心が深いお父さんだったんですね。

陳会長
非常に深かったですね。うちの母がそうだったので、23脚ですね。

ーそんなご両親だからこそ、今の陳会長の姿をすごく喜んでいらっしゃるでしょうね。

陳会長
どうだろうね。それは天国で見てくれていると思うけどね。



ー改めまして、影響を受けた人物はいらっしゃいますか。

陳会長
影響を受けた人物は数多くいますよね。
特に料理の鉄人時代の道場さんとか、坂井さんもそうだし、皆それぞれの料理の哲学を持っているから、
全部皆違います。それを直接見られるという、こんな機会は無いですよね。
料理の話になると皆止まりませんから。大好きですから。

ー時に討論になったりしますか?

陳会長
討論なんて無いですよ。なぜかというと、皆それぞれの物を認め合っていますから。
だからこれだけ仲良くなれたし、お互いに認め合っていますね。
だからいまだにお付き合いさせていただいていますね。

ー料理のジャンルも違えば、年代も違いますよね。

陳会長
面白いのは、同じジャンルの人でも考え方が違いますから。
どっちが良い悪いじゃなくて、料理とはそれくらい個性があるという事を教えてくれます。

Episode-6

―過去に「もうダメだ!」と思うような試練
父の重圧があまりにも重すぎたので、 このままでは俺はダメだと感じた時期があります

ー過去に「もうダメだ!」と思うような試練はありましたか?

陳会長
頻繁にあります。「私は誰、ここはどこ」ですね。そんなのは経験しました。

ー一番大きな試練で思い当たる事はありますか。

陳会長
父の重圧があまりにも重すぎたので、このままでは俺はダメだと一時期ありましたよ。


ー何歳くらいの時期ですか。

陳会長
30歳前くらいです。1番仕事をしなくてはいけない位の時かな。あれは苦しかったですね。

ーそれはどう乗り越えましたか。

陳会長
それはうちの妻ですよ。
妻に一言言われたのは「陳建一は世の中に1人、なんでそんなに親父の背中ばかり追うの?味を追求するの?自分にファンを増やしなさいよ」と言われたときに、「なんだそんなことか」と思い、少しずつでいいから変えよう。自分のファンを増やそうと思えるようになったらすごく楽だよね。そこからです。
人それぞれ生き方や考え方が違うわけだけど、俺はそれで救われました。
うちの奥さんも親父と同じ料理学校卒業していますからね。


ーそこが出会いだったのですか。

陳会長
高校3年の時の同級生です。なんで一緒になったのか、食べるのがお互い好きだからですね。

ーよく女性が胃袋掴むなんて話もありますけど、お二人の仲は?

陳会長
当時は高い物を食べられないから、C級グルメですね。
うちの妻のお母さんは美味しい物を知っている人でした。
色んな所にお金がないから連れて行ってくれて、その出会いが、全て僕らは「食」でしたね。

Episode-7

―向上心(モチベーション)を持続させるためにしていること
お客さんの「美味しかった、また来るよ!」がモチベーションです

ー向上心(モチベーション)を持続させるためにしていることはありますか?

陳会長
お客さんがモチベーションをくれるわけです。
自分が作った時にお客さんが「美味しかった、また来るよ」これでモチベーションです。
全部が全部そうはいかないですよ。
でもそういう風に「美味しかった、また来ます」というのは最高のモチベーションですね。
だから、僕にとってお客様の前に出るというのは大事な事だから、色んな料理人がいて、
調理場でひたすら作って、サービスは他のスタッフに任せる。これも立派な料理人です。
僕みたいに出てくる料理人も色んなタイプがいるわけですよ。
俺はどちらかと言うと、出て行って目の前で作ってしまうタイプだから、どちらかと言うと、そっちのタイプです。だからそれをどうチョイスするかですから、どちらが良い悪いではないので、
それでモチベーションをいただいているわけで、自分が作った料理食べて美味しいと言われたら、嬉しくない?


ー嬉しいです。また作りたいと思いますよね。

陳会長
要するにまた作りたいというのが、モチベーションになるわけですよ。

ー今でもお客様との時間をすごく大事にされているのですね。

陳会長
もちろんです。お客様の思考というのがまた面白いじゃないですか。
これはサービスマンとの連携ですから。
俺たち普段調理場でお客様の顔が見えないので、どうやって食べているかとか気になりますよね。
理想は目の前で作って、自分で出してというのが理想ですよね。

ーカウンターにしている店もありますもんね。

陳会長
渋谷の店はオープンキッチンにしたりしているわけです。赤坂は無理ですからね。
今はコロナという、ソーシャルディスタンスの時代なので、無理ですけど、
前はお客様を調理場に入れていましたからね。

ー希望される方は調理場に入れていたのですか。

陳会長
希望ではなくて、お客様の会話で分かるでしょ。サービスマンが分かるではないですか。
「美味しい、今日は建太郎さんいるのかしら」とかの会話が聞こえたら、
案内できる合図をお客様が出していますから。全部お客様が情報を出してくれるわけですよ。
それをキャッチするサービスマンが僕たちにとっての大事なパートナーです。
だからよく料理人ばかりが注目されますけど、大きな間違いです。
サービスマンが僕たちの情報を吸収してくれるから活きるわけですよ。
そこはすごく大事ですね、欠かせない僕らのパートナーです。
料理学校ではそういう事を教えないですよね。理論ばかりです。



ーでもお店をするにはすごく重要な部分ですよね。

陳会長
あとで入ってから気が付くやつもいるし、そのままレシピ通りでいってしまう人もいて、
それはしょうがないけど、1番最初はどうしたってレシピ通りやるしかないからね。
そこから自分で研究してくると、料理の幅と言うのが広がっていきます。

Episode-8

―料理づくりのインスピレーションを感じるコトやモノ
様々な料理の味や盛り付け、食材の組み合わせを実際に食べて感じることです

ー料理づくりのインスピレーションを感じるコトやモノがあれば教えてください。

陳会長
今は情報がすごい、そこから吸収すればいい。あとは自分が行く。

ー実際に行く店はどうやって決めていますか。

陳会長
匂いを嗅いで「ここの店美味しそうだな」とか、今は情報が沢山あるので。あとは友達関係です。

ーご自身で情報収集をされているのですね。

陳会長
結構回りから来ますからね。僕は携帯で調べたりするタイプではないです。
そういうのが出来ないので、友達が色んな情を教えてくれます。



ー言われたらすぐ行動するんですね。

陳会長
予約取って行ってみようとかさ。今日もこれからイタリアンに行く。

ー聞いて、本当に美味しかった時は「当たりだ」とかはありますか。

陳会長
それはありますよ。だって好みとかがあるわけですから。

ー美味しかったお店はまた行かれたりとかしますか。

陳会長
もちろん。それは仲良くなって行くときはあるし、行っているところも現にあります。

ーお店の方は「あっ、陳さんが来た」と気づかれることもあるのですか。

陳会長
気づかれるときもあれば、それはしょうがないです。

ープレッシャーもありますね。

陳会長
大体大人しく食べていますから。

ー改めまして、料理づくりのインスピレーションを感じるコトやモノがあれば教えてください。

陳会長
食べたときのインスピレーションです。
味とか、盛り付けとか、それからどうしてこういう組み合わせにしたとか、それは食べると分かる。
本だけでは分かりませんから、実際に食べる事です。匂いを嗅ぐ、食べること。



ー実際にお食べになって、それを再現されることはありますか。

陳会長
しょっちゅうやっています。食べて、うちに帰って晩飯を作るときにそれを作ったりとか。

ー再現率はどれくらいですか。

陳会長
難しいですね。自分のアレンジが入っちゃうから。どうしても自分の好みを入れちゃうからさ。
自分が美味しければ、それで全て丸く収まりますから。他の人はどうでもいいです。

ー奥様に料理を振舞ったりしますか。

陳会長
うちは二人とも作ります。

ーそこも意見交換したりしますか。

陳会長
意見交換なんてしませんよ。

ー担当とかは決まっていますか。

陳会長
ほとんど僕が作っています。

ー一番身近なジャッジする方が奥様なんですね。

陳会長
俺の料理が好きだから、全然問題ないです。

Episode-9

―自分の専門分野以外の味を勉強する必要があるか
あります
関係ないなんて思わないでください

ー自分の専門分野以外の味を勉強する必要がありますか?

陳会長
それは当たり前です。

ー陳さんご自身は勉強されてきましたか。

陳会長
いろんなカテゴリーの料理人の友達が教えてくれます。
僕の場合は、調理場で作っているのを直で見られるから、色んなイベントに行って、
そこにシェフがいて、そこで違うジャンルの料理を作るので、見て食べればいいです。
色んなテクニックを皆持っているので、こんないい機会はない。本じゃないからね。



ーその学んで吸収された事が、ご自身の四川料理に役立ったりしましたか。

陳会長
応用していることはいっぱいある。

ー例えばこのジャンルの料理のこんなところを活かしているというのはありますか。

陳会長
例えば、ロワイヤルだよね。フォアグラの茶碗蒸しです。
あれは坂井さんからゲットしました。坂井さんはウニのパスタが大好きで、そのソースもゲット。
だって教えてくれますよ。全部細かく。

ー逆に陳さんが差し上げたものはありますか。

陳会長
麻婆豆腐は皆作れるよ。フレンチのSさんなんか混ぜるのが大好きだから。

Episode-10

―料理に対して価値観が変わったエピソード
たとえば、分子料理は価値観の変化のひとつです

ー料理に対して価値観が変わったエピソードは何かありますか。

陳会長
時代の流れで料理は変化したけどね。もちろん。
一世風靡した料理があるじゃないですか。「分子料理」です。科学的に証明して作る料理です。
スペインのものすごく有名な料理人エルなんとかってやつね。
分かり易く言うと、麻婆豆腐を咀嚼して、それをイクラみたいにするわけですよ。
それを小さいスプーンですくって食べたときに「麻婆豆腐だ!」という料理です。
咀嚼と言って、人間は噛んで味が分かるはずです。だから料理というのは長さとか太さで味が変わる。
もっと分かりやすくいうと、醬油って液体だよね、それを泡の醬油にする。それが分子料理だよ。
あと香水を嗅いでから食べるとか、さざ波(波の音)を聴きながら食べる。
それが珍しくて一世風靡したの。そういう料理を作る人がいるわけ。それは価値観の変化の一つです。
俺、食べに行って大変だったよ。長いの、30何品だもの。いまだに覚えているのは、イソギンチャクです。
皆嫌だと言って食べなかった。でもシェフが11皿見に来ていて、
残しているのが気にくわなかったみたいで、俺は食べた。



ーイソギンチャクの味はいかがでしたか。

陳会長
あまり食べるものではないな。もういらないです。でも日本では九州では食べるよ。

Episode-11

―自分がイメージした料理を実際に一皿にして提供するまでの試行錯誤
何回も試行錯誤しながら作ります
一番最前線にいるサービススタッフに食べてもらうことが大事です

ーご自身がイメージをした料理を実際に一皿にして提供するまでにはどのような試行錯誤をしていますか。

陳会長
やっぱりそれは何回も試行錯誤しながら作ります。考えただけでは上手くいきません。



ーイメージしたものがお皿になるまでにはどのようなものでしょうか。

陳会長
パッと出来る場合もあるし、すごく時間がかかる場合もあるし、その時の状況によって全然違う。

ー納得するまで作られるのですか。

陳会長
製品として自分がOKではなければ出せないですよ。
それだってお客様によっては、好みがあるわけですから。

ー改めまして、ご自身がイメージをした料理を実際に一皿にして提供するまでには
どのような試行錯誤をしていますか。


陳会長
自分が食べて、人に食べてもらってアドバイスを受けるわけです。
「もうちょっとこうした方が良いよね」と思う人もいるし、「これはスプーンがあった方が良いわね」とか、
食べると色々なことが分かります。作り側は実際にそれをちゃんと食べないとダメです。
そうすると、「大きすぎるよね」とか「食べにくいよね」とか、女性の立場にたったらちょっと違うし、
色々な事が分かります。中華は基本的にはナイフフォークのない世界です。
でもナイフフォークがあった方がいい場合があるわけです。食べやすいじゃないですか。
それはお客様側になると分かりますよね。だからサービスマンの言うことがすごく大事になります。



ーチェックしていただく方は色々な方にチェックしていただくのですか。例えばどんな方でしょうか。

陳会長
一番最前線にいるサービススタッフに食べてもらいます。一番見ているから。
それをサービススタッフに言われた時に「何言ってるんだよ」ではだめです。

Episode-12

―経営者陳建一の理念とは
一言でいうと「明るい」、「挨拶」です
「挨拶」は大事です

経営者陳建一の理念はなんですか?

陳会長
俺の理念はすごく単純です。
とにかく気持ちよく仕事をして、気持ちよくお客様に過ごしてもらうだけです。
そんなに深い事考えていなかったです。
一言でいうと「明るい」「挨拶」です。調理場に入ったときに「おはようございます」と挨拶するでしょ。
日本には「いただきます」という言葉もありますよね。これはすごく大事でしょ。



ーそれは従業員の方たちにも伝えていますか。

陳会長
まずは自分から率先して「挨拶」することです。
調理場に「おはよう」と入ったときに「おはようございます」と返してくれたら気持ちいですよね。
これはどこも一緒ですよね。

Episode-13

―最高のおもてなしとは
お客様に気を使わせないで、
こちらが気を使うことです

ー最高のおもてなしとはなんでしょうか?

陳会長
これは難しいですよ。その人によって違いますからね。



ー陳さんにとってのおもてなしとは何でしょうか。

陳会長
やっぱり相手に気を遣わせないことです。気を遣わせないでこっちが気を遣うだよ。
お客様、皆性格違うから、それはサービスマンとの連携で、
どういう風に接したらいいかなとか考えますけど、それでも正解は無いですからね。
でも一応マニュアルというものが店にはあるわけですよ。無いと動けないから。
あとは気持ちよく食べていただくだけです。
そっとしないといけないお客様もいれば、色んな会話をしないといけないお客様もいるわけですから。
おもてなしなんて一言で言うけど、そんな方程式なんてないです。あれば逆に気持ち悪いですよね。

Episode-14

―すぐに辞めて行ってしまう人に共通して欠けていること
長持ちしないのは、結局はやる気がないということかもしれません

ー離職率が高い業界ですが、すぐに辞めて行ってしまう人に共通して欠けていることはありますか?

陳会長
やっぱりそれはいい加減なんだよね。
店は一生懸命やってほしいと思ってやりますけど、でも今そこが1番の問題点だよね。
俺にはそういう考え方が無かったから、「辞めたいなら辞めればいい」としか思っていなかった。
大きな間違いだよね。その中には色々な事があったんだよな。



ー実際に経営者の立場から色んな従業員の方たちを見てきたと思いますが、
早く辞めてしまう人に共通している特徴はありますか。


陳会長
それはあまりないです。辞めちゃうやつはやめちゃうから。

ーもし、「辞めたい」と言われたときに何かされていたりしますか。

陳会長
一応話は聞いて、「まぁしょうがないね」と言います。僕は諦め早い方ですから。



ー逆に長く続けている人に共通していることはありますか。

陳会長
要は同じ釜の飯を食べて、仕事だけではなく、プライベートでご飯食べに行ったりすることで、絆が色んな所に出来ていくんだと思います。研修で香港旅行に行く事とか、そういうときに絆ができるわけです。
信頼関係だよね。裏切ってはダメだよ。
でも裏切られることもあるし、こちらからは裏切ってはいけないし、それだけです。

Episode-15

―若い料理人に求めるもの
苦しさの中に面白さを見つけないと長続きしません
できるようになったときの喜びを感じて欲しい

ー若い料理人に求めるものは何ですか?

陳会長
「楽しくやりなよ」それしかないです。店のためにやるのではないから、自分のためにやりなよ。
将来的には自分が独立した時に、皆やっていくわけですから、そのために一生懸命やりなさい。
料理は作らないと上手くならないから。

Episode-16

―長年、名店として愛されるお店を維持していく秘訣
秘訣はコツコツ
それだけです

ー長年、名店として愛されるお店を維持していく秘訣は何ですか?

陳会長
秘訣はとにかく一生懸命やる事だと思います。
それだって色々な出来事が起きるわけだから、とにかく飽きずに一生懸命やる事だと思います。



ー本当に長年愛されて、そしてお店も沢山お持ちですよね。

陳会長
これはうちの父が増やしていったし、自分が増やした店もあるし、
今はほとんどうちの息子に任せているから、彼は彼なりの考え方で、
一生懸命やっていますし、色っぽいお店を作ってしまったからね。似合わないです。

ーお父様の場合は、ご自分の国ではなくて、日本に中国料理を広めた神様ですものね。
また世界に広まっているのですね。


陳会長
広まっているというか、それは息子がどう考えるかだよね。

ー何かアドバイスをされたりしていますか。

陳会長
僕は聞かれた時にしか言いません。口出ししないです。
見ると気になってしまうタイプだから見ないね。

 

Episode-17

―料理人人生で一番感謝していることは何ですか?
料理人の友達がたくさん出来て、絆が出来たこと

ー料理人人生で一番感謝していることは何ですか?

陳会長
それは美味しい物が食べられることでしょ。
料理人というのは、友達が出来ると美味しい物を作ってくれるし、最高だよね。友達大事。

ー1番仲良しな料理人の方はどなたですか?

陳会長
沢山いすぎて言えません。それぞれのジャンルにいるから。
波長が合えばすぐ仲良くなってしまいますからね。
洋食のSさんなんか特にそうですね。毎年一緒に中国へ旅行に行くんですよ。
たまに飽きるとベトナムに行きます。

ー何年くらい旅行は行かれていますか。

陳会長
17年くらいです。
今はコロナで中止になってしまいましたが、それまでは四川省に3回くらい行っています。
他に雲南省、上海、ベトナムに行ったり、たまに間違えて
グアム島に行ってしまったときもありました。ゴルフですけどね。

ー旅行の目的はゴルフで行かれたのですか。

陳会長
ゴルフですが、美味しい物食べたいでしょ。
グアムは間違えてしまって、こんなこと言ったらあれだけど、美味しい物があまりないのでね…。

ー基本は美味しい物を食べに行く旅行を毎年していて、年々舌が肥えてレベルアップしているのですね。

陳会長
レベルアップというか、気の合う料理人友達と旅行に行って、
料理を楽しむのが趣味であり、楽しいです。

Episode-18

―料理人人生における最終的な目標とは
目標はありません
それは毎日やっていることだから

ー料理人人生における最終的な目標は何ですか?そのために取り組んでいることはありますか?

陳会長
目標はもう無いですね。それは毎日やっていることだから。
目標作っちゃったら終わっちゃうから。無いよ。ずっと続けるわけだから。
1つの物に対して、これ出来るようにしようと思うのは目標だけど、
それが終わればまた次が来るわけですから。目標と言うのは永遠に無いです。



 改めまして、料理人人生における最終的な目標は何でしょうか。

陳会長
人生を楽しく生きることでしょう。料理人でなくても全部一緒ではないですか。
過去を振り返ったときに全然悔いが無いと思える人生を過ごせるかどうかですね。
これはすごく難しいことですけど、僕はそう思ってやっているからね。
何事も楽しくやるのが1番いいですよ。
ゴルフをやって雨が降ると嫌ですよね。
レインウェアってゴルフバックの中で小さくなっているわけですよ。
そいつのこと考えてごらんよ。そいつが雨降ると出てくるんだよ。
「俺の出番だ」と言って、ゴルフのレインウェアの立場に立てば、
「俺が活躍している」というようなことを、例えばの話で考えると苦は一つも無くなるんだよね。



ースーパーポジティブですね。

陳会長
そう、その方がね。もやしの根っこを捕るんだよ。それを1人でやってごらん。
こんなに暗い事ないよ。「皆で集まってやれば楽しいぞぉ!」すぐ終わっちゃうから。
そういう考え方だな。どちらかというと。

Episode-19

―ズバリ!一流の料理人とは
しっかりと自分で料理を作り、提供できる料理人です

ーズバリ!一流の料理人とは何ですか?

陳会長
これは自分で決めることではないので、分かりません。

ー陳さんから見てこの人一流だなと思う人はどんな人ですか?

陳会長
それはちゃんとお仕事をする人ですよ。



ーそれは周りに沢山いらっしゃいますか。

陳会長
いっぱいいますよ。例えば色々なイベントがあるじゃないですか。
仕込みからやり、人に任せるんじゃなくて自分で作って、そういう料理人ですよ。
特に中華料理は鍋を振る仕事ですから、これはもう自分でやるしかないです。
全部レシピ通り誰かやっておいてというのは違う。自分でやらなきゃダメだろう。
あとは僕が見ていて、調理場でオーラというか、嫌な存在感ではなくて、
皆を「よし頑張るぞ!」と盛り上げるオーラがある人です。

ー今日の陳さんを見ているとまさにそうだと思います。

陳会長
俺は普通にやっているだけだから。
やっぱり黙々とやるのもいいけれど、周りを引っ張っていく方が俺はそのタイプだけど、
料理人によって違いますから、一概には言えません。

 

Episode-20

学生からの質問➀
ー陳会長が一番練習を重ねた料理の工程は何ですか?

ー陳会長が一番練習を重ねた料理の工程は何ですか?

陳会長
胡麻振ることかな。鍋振れないと中華料理はできないから。
芝麻醤と言って、自分の所で調味料を作っているので、
胡麻をフライパンで振っていると上手くなるので、振っていました。
みんな最初はね鍋なんか振れないんだよ。これはやらされたね。
あとはザーサイを切るとかね。薄くね。そこから葱をみじん切りにするとかね。
そういう基本的な包丁の持ち方とか、鍋を振れないと話にならないので、鍋の練習とかです。



ーまた中華鍋は重いですよね。

陳会長
これが、コツがあります。中華にはハカマがあるじゃない。そのハカマを滑らせるの。
あれを持ったら皆、腱鞘炎になっちゃうよ。うちの父は、それが上手かったです。
うちの父は大きい鍋をあまり使わないです。
ボウルとかを使って、いかに料理人として長持ちするかを教えてくれたの。
うちの父は私の直属の師匠ですから。

Episode-21

学生からの質問②
ー食材の中で四川料理には特に不向きな食材はありますか?

ー食材の中で四川料理には特に不向きな食材はありますか?

陳会長
不向きなものはあまりないです。



ー四川料理というとすごく香辛料を使うイメージですが…

陳会長
香辛料というか、豆板醤とか山椒とか使うけど、そんなにないですよ。
だから合わせなきゃいけないから、うまく調理していけばいいのではないですか。

 

Episode-22

学生からの質問③
ー良い中華料理店を見極めるのに、大事な要素は何ですか?

ー良い中華料理店を見極めるのに、大事な要素は何ですか?

陳会長
やはり、評判ですよね。本当にお客様の評判。
あとは自分の目で確かめるしかないですから。
今は調べると出てくるじゃないですか。口コミって言うの。
そうすると色々な事が書いてあるの。「最高に良かったです」とか、逆に「最低でした」とかね。
自分で行かないと分からないわけだから。
自分を信じて、最初はそういう情報でしか来ませんから、行ってみて感じてください。
足を運ぶという事がすごく大事ですから。



ー実際に足を運ばれてどんなところをチェックされていますか。

陳会長
パッと入ったときの迎えてくれる人ですよね。

ー最初の印象がマイナスでスタートすると、その後に影響したりしますか。

陳会長
皆そうじゃないですかね。

Episode-23

学生からの質問➃
ー職業病はありますか?

ー職業病はありますか?

陳会長
お店に行くじゃないですか、そうするとお店全体を見渡せる席が好きで、
そこでスタッフの動きを見てしまう事が職業病かね。
「あぁ、あそこでお客さんが呼んでいるのに全然気づかない」とか、
「料理があるのにまだ運んでいない」とか、「あの人暇なのになんでこっち見ないの」とか、
「あそこ水がないのに」・・・職業ですかね。



ー落ち着いて味わえないですね。

陳会長
いや大丈夫。ちゃんと味わいながらやっているから。俺は趣味だから。
有名なファミリーレストランの××。料理が出るところが見えるんだよ。
すごく暇なときにお腹ペコペコで行ったら、パッと料理が出てきたの。
「あれは、俺が注文したやつかな?」スタッフも料理作った人もいるのに誰も来ない。
「え?違うのかな?」と思っていたら、5分後に気が付いて俺の所に来るの。
俺は拒否して、抵抗しようと思って、一口も食べないで金を払って帰ろうと思った…
まあ、お腹ペコペコだから全部食べちゃったんだけどね。
その時に思ったことがあるわけよ。料理人が「出来たよ、はいどうぞ」って作ればおしまい。
お客様への提供までを考えない料理人は最低です。この料理のあとは関係ないんだよ。
これは最低だよね。おれはそういうのが許せないです。
その店には「もう二度と行くか」と思いましたけど・・・すぐ行きました(笑)

reportインタビュアー紹介・レポート

インタビュアー

  • 都内中華料理店勤務の
    若手料理人
  • 料理人を目指す学生

レポート

都内中華料理店勤務の若手料理人

今回はご質問に答えて頂きありがとうございます。

中華料理人を夢見ていま夢への第一歩を踏み出したところです。
陳さんは動画などで拝見し、憧れの料理人のおひとりです。そのような方に今回ご質問させて頂ける機会があり感動しています。

今回ご回答いただいた『胡麻をフライパンで振っていると上手くなる』これは実践していきます。
地道にコツコツ努力をし、早く独立できるよう頑張ります。

飲食業界は厳しくなってきてますが、どんな苦境に立たされようと乗り切って一人前の料理人になります。
今回は本当にありがとうございました。

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料理人を目指す学生

今回はありがとうございました。
就職した先輩でも1年目でやめてしまう人もいて、どこに就職するか非常に悩んでいました。
ただ、陳さんのインタビューを聞いて、どこで働くかよりも、やはりあきらめずに一生懸命やることが重要なんだと再認識しました。

四川飯店みたいな大きなグループを作れるようになれるかはわからないですが、まずは一人の料理人として早く一人前になれるように就職後は頑張ろうと思います。
いつかお会いできる日があれば、その時には直接お礼を言わせてください。

ありがとうございました!

recipeお店を代表する3品

厨房での陳建一オーナーの姿をお楽しみください。

搾菜肉絲(豚肉とザーサイの炒め)

筍、ピーマン、豚肉、ザーサイと芽菜(ヤーツァイ)をプラスするのが美味。四川飯店の名物。

乾焼明蝦(大海老のチリソース)

ポイントは卵が入る。タレを焼きながらさくっと仕上げる。エビチリの豆板醤は若い豆板醤を使う。

陳麻婆豆腐

父と私(本場四川省の陳麻婆豆腐店で研修し習得したもの)の合体版。麻婆豆腐は3年熟成の豆板醤を使う。豆腐は絹に近い木綿。食べた時の歯ざわりが柔らかい。

  • 正面カメラ
  • 側面カメラ
  • 俯瞰カメラ

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